サッカー元日本代表MF中田英寿氏(49)が27日、東京・六本木ヒルズで開催中の、オーガナイザーを務める「CRAFT SAKE WEEK with OMAKASE byGMO at ROPPONGI HILLS」で、鈴木憲和農相(44)と対談した。「『美味しい』を守る:食の未来を決める、最後の一票。」と題し、レフェルベソンスの生江史伸様シェフ、日本橋蛎殻町すぎたの杉田孝明オーナーシェフを交え、議論を展開した。
中田氏は、09年から日本全国47都道府県をめぐる旅をスタートし、400を超える酒蔵を訪れ、日本酒、農業、工芸を中心に、数多くの生産者の元を訪ね、日本が誇る文化や技術の素晴らしさに出会ってきた。その見地から「現場で後継者不足と、よく言われる。息子や娘がいないのか? 仕事として成り立たないから継ぐ人がいないのか? 後者の方が多いとすると、元々の産業構造自体が、おかしい」と鈴木氏に投げかけた。さらに「なぜ1次産業が続いているかというと生活に必要だから。これからも、食べるもの、飲むものが必要なのに、産業構造がうまくいかないから衰退するのはどういうものだろう?」と疑問を呈した。
鈴木氏は「2つ、あると思います。ブランドものを作っている生産者は、高く売れている。毎日、スーパーに並ぶものを作っている方は、効率化するとうまくいく、という話になっている。2つのルートがある、大事なものを残す、というのが大事」などと答えた。
その中で、生江氏は「税金が払えない農家さんがいるのを聞いてショックを受けた。そうなると、私たちは成り立たない。飲食業は、ほとんどが中小。マッチする農家がいれば、日本の農家はうまくいくと思うが、マッチングができていない」と、厳しい生産者の現状を訴えた。中田氏から「(店で)取り扱っていた農家さんが後継者がいなくて終わったことは?」と聞かれると「あります。先日も…息子に継がせたくない。継がせたいというより、この職業で子供たちが幸せになれないという農家さんが多いのが僕の周りの現状」と続けた。
杉田氏は「漁業は作ることじゃなく、取らせていただく。天然資源がないと、稼げない。実情として、魚を捕っている漁師さんで稼げる人が少数。稼げていないのは魚がいない。農業と漁業はスタートから違う」と鈴木氏に訴えた。中田氏から「気候変動で磯焼け、魚(の生息する海域が)が変わっていっていないのか、取りすぎ?」と投げかけられると「気候変動が大きい。僕らの力で変えられるのは、河川、海に流れ込む栄養…山から流れることは、人間でもできる」と答えた。
中田氏は「資源が取れなくなったり、漁師、農家が減っているのは食文化にも影響がある。日本食が世界遺産になり、海外の方がいらっしゃる1番の目的がコンテンツである日本食。伸ばすためにどうするか?」と、インバウンド(訪日客)に関する方向に議論を向けた。杉田氏は「(日本に)来てくださる大きな目的が食で、食を代表するのがお米と魚。一生懸命やるので大臣、頑張っていただいて武器、魚を持たせて下さい。武器になるのは素材、食材…魚は何としても守るじゃない、増やしていただきたい」と鈴木氏にリクエストした。
生江氏も「攻めは、日本の素晴らしい素材を世界に輸出して買っていただくこと。日本から、どんどん飯魚がなくなる。腕のある職人さんとの掛け算ができないのは由々しき問題」と強調。「海外のお客さまが来てくださるのは外貨を日本に落とす…狭い意味での輸出。輸出産業をしないと戦後、日本は成り立っていない。食べられる状況を持たない、国内の飲食業をコミットしないと」と鈴木氏に訴えた。
鈴木氏は、メモを取りながら熱心に耳を傾けた。そして、バングラデシュの大使館を訪問した中で、同国でイチゴが売れること、そして柿に可能性を感じていることを明かした。その上で「武器を増やして下さいという話は植物も一緒。不安定になっているところは、供給力を上げる。量、効率じゃなく、掛け合わせ。日本のテクノロジーで世界を取りに行って欲しい。東京、京都はインバウンド(訪日客)は限界。地方に食の魅力で出かけていくあり方が増えていくと、日本の地域が元気になる。生産者が、もっと誇りを持てる構造になると思う」と地方に拡大していくべきと語った。
トークの中で、鈴木氏「中山間地域…畑を作り、住むのもどうか、というところで地域を守るために頑張る人がいる。ご本人に商才がないと生き残れない。国が皆さんにいただいた税金で、条件と格差が埋まらない、頑張りきれないところは支える。食料を生む装置が中山間地域でなくなっていいの? というと、手厚く支えるのが大事」と口にした。その上で「もう1つ、大事だと思うには、この1年、農産品、魚、肉の生産者に『おいしかったよ』って直接、言った人、どれくらいいます? 政治家もそうですけど『ありがとう』と言われた時が一番、やる気が出る。生産者が売り込みに行かないのも…と思うんですけど、そこが1次産業を変える」と訴えた。
その上で「お金を稼いでいる方は、いいものをたくさん作って稼いで下さい、でも、そうでない方を国が支えないといけない」と、生産者に対する国の補助について言及した。その上で「普通に生産して普通の規模感でやっている時、採算ベースが取れるか。それより小さいと他の収入源が必要…それだけ。どういうポートフォリオで人生を、というのを生産者も考えないと、変な議論になる」と語った。
すると、中田氏は「その観点で思うのは、農家ですか? 農家じゃないんですか? というのは、どこで線引きするのか?」と口にした。「最低限、これくらいの規模じゃないと農家ではやっていけない、というのは会社の経営では全く同じだが(農家は)家族経営で経営していない家族みたいなもの。エネルギーコストも上がり、天候不順もある。世界経済、国内経済と、実際に作る人たちの感覚のズレがデカすぎる」と農家の経営における問題点を指摘した。そして「きちんとした指標を出すべき。この作物は、これくらい作って、この値段で売れないと、あなた、農家でやっていくのは無理ですよ、というのを、ある程度、分かるようにしないと、理解するのは難しい。これだけの量を作るからこそ、国のサポートがある、というようにしないと」訴えた。
「CRAFT SAKE WEEK-」は、中田氏が日本酒の奥深さと可能性を強く感じたことでプロデュースし、16年からスタート。日本全国から厳選された酒蔵が日替わりで出店し、昨年まで延べ125万人を動員。10周年を迎えた今回は、29日まで過去最長の13日間、開催し、過去最多の130蔵が参加した。

