歴史的な一戦の裏側に迫る連載「G1ヒストリア」。今回は、レイパパレがデビューから無傷6連勝で制した21年の大阪杯を振り返る。雨の重馬場で3冠馬コントレイル、短距離女王グランアレグリアを撃破した小柄な牝馬には、並外れた心臓の強さとパワーという武器があった。

21年、ゴール前の直線で抜け出し大阪杯を制したレイパパレ
21年、ゴール前の直線で抜け出し大阪杯を制したレイパパレ

午前中は良馬場だった馬場が、大阪杯出走馬がパドックを回るころには重馬場へと悪化した。雨が降り続く中でのゲートオープン。重い馬場を力強く先行したのはメンバー最軽量の牝馬、レイパパレだった。422キロの体を素早く稼働させ、他の12頭を引き連れて逃げる。その中には前年の3冠馬コントレイルや短距離王グランアレグリアなどそうそうたる名馬がいた。

勝負どころでコントレイルとグランアレグリアが体を併せて迫ってきたが、直線で再加速。勢いが鈍った大物2頭を逆に突き放した。2着モズベッロに4馬身差の圧勝劇。逃げながらラスト3ハロンは最速タイという完璧な走りだった。「本当にすごいことをしたなと思います。素晴らしい馬です」。ただ1人、勝負服がきれいなままだった鞍上はパートナーをたたえた。

その存在に注目されだしたのは前年の秋だった。デビュー3連勝の実績をひっさげて秋華賞に登録。2冠牝馬デアリングタクトへの挑戦が期待されたが、抽選に漏れて除外に。代わりに秋華賞の1レース前に行われた大原Sに出走し、ほぼ馬なりで圧勝した。


もし秋華賞に出走していたら。そんな問いに高野師は「出走馬に失礼なので」と言葉を濁したが、さらにその存在は大きくなった。

次走のチャレンジCで5連勝と重賞初制覇を達成。ただ、折り合いを欠く粗削りなレースぶりに高野師は「このレースぶりでは、どんな距離でも(大丈夫)とは言えない」と首をかしげた。それでも大阪杯へ挑んだ。戦前、師は「競馬とは、元を正せばどの馬が一番強いのかを競うもの。一番強い馬に挑戦するのも1つの向き合い方だと思う」と語っている。そして、もっとも高い壁を越えた。

高野厩舎の先輩には15年ジャパンCなどを制したショウナンパンドラという名牝がいた。「走り方が理にかなっており、すべての面においてレベルの高い馬だった」と師は振り返る。対するレイパパレは「同じディープインパクト産駒だけど前重心で理想的な走りではなかった」という。

だが、この小柄な牝馬には違う武器があった。「心臓が強くてパワーがあり、中身がすごかった。理論ではなく力ずくで勝つ馬だった」。【岡本光男】

◆レイパパレ 2017年1月28日、北海道安平町ノーザンファーム生まれ。父ディープインパクト、母シェルズレイ。鹿毛、牝。馬主はキャロットファーム。現役時代は栗東の高野友和厩舎に所属。通算成績は15戦6勝、重賞2勝、G1・1勝。現在は生まれ故郷のノーザンファームで繁殖生活を送っている。