エリザベス女王杯の馬連史上最高配当10万円超! 「G1ヒストリア」は、伏兵馬同士の波乱の行った行った決着となった09年をクローズアップ。11番人気クィーンスプマンテの手綱を取った田中博康調教師(37)が当時を振り返る。管理する小島茂之師の強い意志に背中を押された「とにかく逃げよう」の決断が、人気のブエナビスタ以下を振り切る逃走劇につながった。

09年、エリザベス女王杯のゴールを目指す勝ったクィーンスプマンテ(左端)
09年、エリザベス女王杯のゴールを目指す勝ったクィーンスプマンテ(左端)

横目に一瞬だけ、「パッ」と見えた。京都競馬場のターフビジョンに映った後続との差。「えっ。すごい離れてる」。デビュー4年目の23歳。クィーンスプマンテにまたがった田中博康騎手(現調教師)は懸命に追った。思い出すのは、小島茂師との打ち合わせだ。

「前走の京都大賞典(9着)は控えて中途半端になってしまった。ハナに行ってこそのタイプ。とにかく逃げよう、と。ブエナビスタがいたし、どこまで勝算を持っていたのかは分からなかったけど、シゲ先生(小島茂師)の強い意志を感じました。逃げよう、と。G1でたくさんのお客さんを沸かせられるかもしれない。それをどれだけ楽しめるか。道中はリズムを楽しんでいただけなんです」

11番人気クィーンスプマンテと12番人気テイエムプリキュアのハナ争いで最初のコーナーへ。3番手につけたのはフランスの名手スミヨンと初コンビの4番人気リトルアマポーラ。「あとで見直して感じたのは、このときのメンバーは折り合いのつきやすい馬が多かったのだと思いました」。2角~向正面で軽快に飛ばす2頭と、ペースを落とした後続の差が一気に開いた。そこで勝負が決まった。

「唯一のG1勝ちですし、忘れません。デビュー2戦目の福島の未勝利戦を勝たせてもらった縁があって、オーナーと先生がチャンスをくれました」。17年に騎手を引退し、調教師に転身した。今年はレモンポップのフェブラリーSでG1初制覇。秋の中山ではセントライト記念レーベンスティール、オールカマーのローシャムパークで2週連続G2制覇を果たし、将来を嘱望される調教師となった。レース前、「騎手に作戦を指示することは?」と問うと、「基本的にはない」と言う。「競馬は生き物です。ゲートを出たときの状況でレースは変わりますから」。一方で「ただ、あの女王杯で、もし(作戦を)任されていたら、もしかしたら、僕は逃げなかったのかもしれない。先生の経験があの指示につながったのでしょうし、これから先、自分もあの体験が生きるときが来るかもしれません」。

 
 
09年、クィーンスプマンテでエリザベス女王杯を制し握手を交わす小島茂師(左)と田中博康騎手
09年、クィーンスプマンテでエリザベス女王杯を制し握手を交わす小島茂師(左)と田中博康騎手

騎手時代はフランスに単身で長期武者修行に向かい、現在は世界にアンテナを張る行動派だが、「実はクィーンスプマンテで香港に行くときに初めてパスポートを作った」のだそう。歴史に残る女王杯の番狂わせ。彼の経験がいつかまた、歴史に残る名勝負につながっていくのは間違いない。【木南友輔】

◆クィーンスプマンテ 04年4月9日、社台ファーム(北海道千歳市)生産。父ジャングルポケット、母センボンザクラ(母父サクラユタカオー)。牝、栗毛。馬主は株式会社グリーンファーム。通算成績は22戦6勝。エリザベス女王杯勝利後の香港カップ(10着)がラストラン。繁殖入りし、子はこれまでにJRAで6頭が出走している(現役は3勝クラスのアスティ、1勝クラスのエルバルーチェ)。