エリザベス女王杯は古馬と3歳馬の能力比較が難しい。3冠牝馬リバティアイランドの存在が「強い3歳馬」の印象を与えているが果たして-。水島晴之「G1の鍵 その一瞬」は府中牝馬S3着ライラック(牝4、相沢)に注目する。昨年の2着馬だが、1年たって大きく進化した。その変貌ぶりを検証する。

22年11月、エリザベス女王杯を制したジェラルディーナ(左から2頭目)と2着同着のライラック(右)
22年11月、エリザベス女王杯を制したジェラルディーナ(左から2頭目)と2着同着のライラック(右)

昨年2着同着のライラックが、大きな進化を遂げてリベンジに挑む。ひと言でいえばどっしりした。フィジカルもメンタルも。少女から大人の女性になった印象だ。3カ月ぶりの府中牝馬Sは3着という結果以上に収穫があった。

以前は折り合いに不安があり、後方に下げてはまるかはまらないか、という競馬をせざるを得なかった。昨年のエリザベス女王杯も向正面まで16、17番手。そこから大外をまくってはまったパターンだ。長くいい脚は使うが、展開や流れに左右される分、安定感には欠ける。

それが前走は好スタートから5、6番手で流れに乗り、馬の後ろでしっかり折り合いがついた。逃げたディヴィーナの前半1000メートルは60秒0。後続は6、7馬身離れており、2番手以降は61秒台のスロー。この流れでも掛からずに落ち着いて走れたのが一番の成長だ。

直線は前が壁になり仕掛けが遅れながら、過去最速の上がり33秒0で鼻+首差。スムーズに抜けてこられたら、差し切りまであっただろう。レースぶりの進化は、馬体の成長が伴ってこそ。宝塚記念から18キロ増の448キロはデビュー以来最も重い。それだけカイバ食いが良く、食べたものが実になっている証拠だ。

フィジカルが整ったことで、メンタルにもいい影響を与えた。もう「一発屋」のイメージはない。正攻法で勝負できる。また、京都外回り2200メートルなら、坂の下りを使って得意のロングスパートも利く。人気は3歳馬だが、心身の成長著しいライラックにも女王の資格は十分ある。

【ここが鍵】経験の古馬、勢いの3歳

エリザベス女王杯は18年リスグラシューから昨年のジェラルディーナまで5年連続で古馬に軍配が上がっている。過去10年で3歳馬の勝利は13年メイショウマンボ、17年モズカッチャンの2頭。やはり経験値という点では古馬に分があるようだ。

ただ、今年の3歳は3冠牝馬が誕生。例年になくハイレベルという呼び声もある。リバティアイランドが出走してきたら当然1番人気に支持されただろうが、ジャパンCへの参戦が決まり、今回は2番手グループと古馬との対戦となった。

オークスでの6馬身、秋華賞での1馬身+2馬身半(2着マスクトディーヴァも不出走)の間に割って入る古馬はいるのか。そのあたりが鍵となる。

■ジェラルディーナ新コンビ魅力

連覇を目指すジェラルディーナは、有馬記念3着以降の成績がさえないが、宝塚記念では早めの仕掛けでイクイノックスと勝負して0秒2差。あらためて牡馬相手に力のあるところを見せた。前走のオールカマーはスタートが悪く、流れに乗れなかったのが敗因。1度使って状態面の上積みが見込めるし、ムーア騎手との新コンビも魅力。京都外回りなら仮にスタートで遅れても挽回が利く。

■ルージュエヴァイユ目見張る充実

ルージュエヴァイユも一戦ごとに、違った「顔」を見せている。2走前のエプソムCは2番手の積極策から粘ってジャスティンカフェの2着。一方、府中牝馬Sはスタートが決まらず後方からになったが、スローの瞬発力勝負の中、大外を回って32秒7のすごい脚を使った。血統的に2200メートルは微妙だが、ここへきての充実ぶりは目を見張るものがあり、前走の競馬ができれば克服も可能だ。

■シンリョクカ見限れぬ3歳

3歳馬ではシンリョクカの巻き返しが怖い。府中牝馬Sは秋華賞との両にらみで、正式に出走が決まったのは出馬投票があった木曜日。東京と京都では輸送時間も違い、仕上げが難しかったのではないか。20キロ増はほとんどが成長分としても、中身は1度使った今回の方が数段いい。距離が延びるのも歓迎。ハーパーとは桜花賞、オークスで差のない競馬。前走だけで見限るのは早計だ。