あの坂路を上った! 今回の「ケイバラプソディー~楽しい競馬~」は、舟元祐二記者がノーザンファームの育成牧場の1つ、福島県天栄村にあるノーザンファーム天栄を訪れた。天栄の厚意で、900メートルの坂路を実際に歩いてみた。G1馬をはじめ、多くの馬が鍛えられるコースを登坂。ノーザンファーム生産馬の強さを再認識し、自分自身の運動不足を痛感させられた。

中央競馬の記者になって2年目の夏になりました。今はローカル開催でG1は秋までお休みです。一線級の馬は、この期間を休養に充てることが多いです。ノーザンファーム天栄はG1馬のエフフォーリア、シュネルマイスターなどが英気を養っている場所であり、主に関東のノーザンファーム生産馬が調整される“前線基地”。初めて取材に行ってきました。

今回は、うわさの坂路にいざ挑戦だ。美浦トレセンのそれはウッドチップですが、天栄はポリトラック。粒子が細かくて、実際に歩いてみると足がぐっと沈みます。木実谷雄太場長は「クッション値を5~6に設定していて、2週間に1度クッション値にずれがないか確認しています」と徹底管理されている。JRAのクッション参考値を見ると、体育館などで使う体育マットが「5」相当だそうです。そして何よりすごいのが高低差。美浦の18メートルに対し、天栄は36メートル。倍です。見た目はそこまで坂を感じませんでしたが、1歩1歩進めるごとに足が重くなってきます(笑い)。900メートルのコース半ばで息が上がりました。ゴール後に馬のスピードを落とすためにきつくなっている坂を越えるころには、顔は汗だく、膝が笑っていました。運動不足を痛感…。日々トレーニングをしている馬は、自然と心肺機能が高くなり、競走能力にもいい影響があるはずだと納得しました。「負荷がかかりやすい半面、背腰の疲れとか、オーバーワークにならないように細かいさじ加減が求められますね。運動終わりのクールダウンや、馬房に帰ってからのケアを大事にしています」と木実谷場長。僕が帰りにドラッグストアで湿布を買って、足に貼ったのは言うまでもありません。ちなみに東西トレセンと同じように天栄の坂路時計は自動計測されますが、僕は測定不能でした。

今年の春の平地G1は12レース中、関東馬が8勝と活躍。天栄で調整された馬ではジオグリフ(皐月賞)、ソングライン(安田記念)がいます。木実谷場長は「関東馬は調子いいですよね。でもうちとしては2勝なので、もっと勝てるように、いろいろ工夫して頑張りたい」と前向きの姿勢を崩しません。これから天栄で調整された馬が好走したら、自分も坂路を上ったなとか、親近感が湧くと思います。秋のG1が始まるのが楽しみで仕方ないです。【舟元祐二】

◆ノーザンファーム天栄 11年に福島県天栄村に開場。現在は11の厩舎があり、馬房数は316で今後も増設予定。屋外の周回コース1200メートル、屋外の坂路コースを備える。主に関東馬の入厩前の調整を行うための施設。16年に海外遠征時のための輸出検疫厩舎を開設。エフフォーリア、イクイノックス、ジオグリフ、シュネルマイスター、ソングラインなど春のG1を沸かせた馬が現在過ごしている。

(ニッカンスポーツ・コム/競馬コラム「ケイバ・ラプソディー ~楽しい競馬~」)