凱旋門賞とはなにか? その答えが08年の凱旋門賞にあるような気がします。

この年の出走馬は16頭。人気を集めていたのは、クラシックの仏1000ギニーと仏オークスを連勝し、大きく出遅れたヴェルメイユ賞も、きっちりと差しきった3歳牝馬ザルカヴァ。2番人気には“キングジョージ”や英インターナショナルステークスなどG155連勝で挑むデュークオブマーマレードと、前年の愛ダービー、ニエル賞の優勝馬で、シーズン序盤のコロネーションC優勝、サンクルー大賞2着から間隔を空けて臨むソルジャーオブフォーチュンが並び、日本から遠征したメイショウサムソン(武豊騎手)はぶっつけ挑戦もあって7番人気タイでの出走となりました。

当日は厚い雲が立ちこめる憂鬱(ゆううつ)な天気模様。パドックに馬が出始めたころに強い風を伴うシャワーがあって馬場状態の発表はやや重ながら、力のいる芝コースとなりました。

レースはザルカヴァと鞍上のクリストフ・スミヨン騎手の独壇場に終わります。ザルカヴァは大きく出遅れて馬群の後方を追走、“偽りの直線”と呼ばれるフォルスストレートを過ぎて直線に入ってもインに閉じ込められたままという絶望的な状況でしたが、勝負どころに入ると前をふさぐ馬群をこじ開けて邪魔な馬をはね飛ばし、あっという間に先頭に躍り出てゴールイン。最後の2ハロンを23秒1でまとめる豪脚で、2着に追い上げたユームザインに2馬身差をつけて、不敗の凱旋門賞制覇を成し遂げました。

ザルカヴァが飛び抜けて強かった故の逆転劇でしたが、スミヨン騎手のインにじっと我慢して最後にはじける競馬こそが、凱旋門賞の本質を物語っているように思えます。

凱旋門賞を4勝しているオリビエ・ペリエ騎手は、凱旋門賞の勝負どころのフォルスストレートについて、坂の下りでもペースを変えずに馬を落ち着かせることが大切としたうえで「最終コーナーを回る際に、なるべく外を回りたくないので、よりベストなポジションを確保することにトライ出来る最後のチャンスであり、ロスなく、内をうまく走れた馬が勝つ。日本の競馬場で似ている京都は、最終コーナーを回った後に馬群がばらけて大外を通って勝つ馬もいるが、ロンシャンはそうはいかない」と指摘しています。また、最後の直線についても「道中の勾配のきつい長い坂を通っていて、馬は相当のスタミナを消耗している。追い出しは他の馬との兼ね合いや、それまでのペースによるが、位置取りによっては早めにしないと全然間に合わない。でも、早過ぎてもだめ。騎手の判断力が問われる場所でもある」という的確な意見を述べています。

これから導かれる結論は包まれることを恐れて外を回っていては絶対に勝機は訪れないと言うこと。内でじっくりと脚をためることが出来る馬と、スパートのタイミングを誤らない騎手を見つけることが出来れば、馬券も的中に近づくはずです。これは馬券で参加するファンだけでなく、日本馬に騎乗する騎手のみなさんにも改めて理解しておいてもらいたい事柄です。


◆08年凱旋門賞の全着順

着順 枠番 馬名 性齢 騎手 着差 人気


1着 1番 ザルカヴァ 牝3 C・スミヨン 2分28秒1 1番人気

2着 3番 ユームザイン 牡5 R・ヒルズ 2馬身 5番人気

3着(同着) 9番 ソルジャーオブフォーチュン 牡4 S・ヘファーナン 2分の1馬身 2番人気

3着(同着) 2番 イッツジーノ 牡5 T・テュリエ 12番人気

5着 8番 ヴィジョンデタ 牡3 I・メンディザバル 1馬身 3番人気

6着 15番 アスク 牡5 R・ムーア 首 9馬身人気

7着 14番 デュークオブマーマレード 牡4 J・ムルタ 頭 2番人気

8着 7番 ゲッタウェイ 牡5 O・ペリエ 1馬身 4番人気

9着 16番 チマデトリオンフ 牡3 D・バルジュー 1馬身 12番人気

10着 4番 メイショウサムソン 牡5 武豊 短頭 7番人気

11着 12番 カムジン 牡3 J・ヴィクトワール 2馬身半 7番人気

12着 5番 ペイパルブル 牡5 J・フォーチュン 1馬身半 7番人気

13着 10番 スキャパレリ 牡5 L・デットーリ 4馬身 9番人気

14着 6番 ブルーブレジル 牡3 W・モンジル 3馬身 14番人気

15着 11番 ザンベジサン 牡4 S・パスキエ 10馬身 11番人気

16着 13番 レッドロックキャニオン 牡4 C・オドノヒュー 大差 14番人気

(ターフライター奥野庸介)

競走成績などは2022年9月22日現在

※次回更新は10月7日の予定です。

初公開パリロンシャン競馬場のプレスルーム
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