オグリキャップの妹オグリローマン(牝4、栗東・瀬戸口)が鼻差勝ちで桜の女王となった。1枠1番から絶妙のスタートを切り、最初のコーナーを先頭で回ると、向正面では先行グループの直後に待機。直線では外に進路をとり、目の覚めるような末脚でゴールに飛び込んだ。地方競馬出身では初の桜花賞馬誕生で、登録がなくクラシックに出られなかった兄オグリキャップのうっぷんを晴らした。1分36秒4はニュー阪神コースでの桜花賞レコード。絶妙の手綱さばきを見せた武豊騎手(25)は1989年(平元)シャダイカグラ、昨年ベガに続く3度目の制覇。瀬戸口勉師(57)は初めて。

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こんなドラマがあるのか。ゴール前、直線での激しいつばぜり合いだ。1番人気ローブモンタント(栗東・飯田)の田原成貴騎手(35)が、必死の形相で追いまくっている。インでは抽選で出走権を得た大崎昭一騎手(49)騎乗のツィンクルブライド(栗東・橋口)が、幸運を最高の結果に結びつけようと先頭に立った。その外から伸びてきた、白い帽子の騎手に芦毛の馬体。オグリローマンだ! ユタカだ! ゴールではきちっと計ったように“ハナ”差だけかわして第54代ミス桜の座に就いた。

単勝7・3倍。支持率10・7%のオグリローマンだが、恐らく単勝馬券を買ったほとんどのファンは、金もうけより応援の意味を込めて一票を投じていたはずだ。馬名入りの桜花賞記念馬券に、と。新アイドル誕生にわく場内の大喚声の中、武は右手で小さく2度ガッツポーズをしながら引き揚げてきた。期せずしてオグリコールが起こる。兄オグリキャップの引退レースとなった1990年(平2)の有馬記念と同じ光景が、仁川の阪神競馬場に展開された。「阪神でもオグリコール。地元ですから本当に気持ちが良かった」と、ユタカスマイルを見せた。

1枠1番。最もゴールに近い位置だが、他馬を怖がり、モマれ弱いオグリローマンには最悪のポジションだった。だれもが苦しい戦いを予想した。しかし、「天才」はやはり違う。レース前の返し馬では、わざとポケット(ゲート後ろの馬が集まる待機場所)に入れて恐怖心を取り除いた。こんなファインプレーが数分後のレースで実を結んだ。好スタートを切り中団のインでじっと我慢する。いつものオグリローマンなら、周囲を気にして首を上げてしまうが、この日は違った。「怖がることは一度もなくレースが進められた」(武豊騎手)と、大一番で見事な変身ぶりを見せた。

直線でスムーズに外へ持ち出すと、兄譲りの力強いフットワークでグイグイと脚を伸ばす。兄は登録がなく涙をのんだクラシック制覇の夢を妹ローマンが見事に果たした。武は「走り方はやっぱり似ていますよね。加速してからのフォームが柔らかいところはそっくり。オグリキャップを思い出しました」と目を細めた。

武は3月31日にタレントの佐野量子(りょうこ=本名・かずこ)さんと婚約を発表したばかり。今年初のG1を絶妙な手綱さばきで勝ち、自ら花を添えた。昨年はベガで桜花賞を勝って勢いに乗り、皐月賞(ナリタタイシン)オークス(ベガ)と春のクラシックを3連勝した。「今年も幸先が良いですからね。来週の皐月賞(フジノマッケンオーに騎乗)も頑張ります」と、エンジン全開を宣言した。【多田薫】

◆オグリローマン ▽父 ブレイヴェストローマン▽母 ホワイトナルビー(シルバーシャーク)▽牝4歳▽馬主 小栗孝一氏▽調教師 瀬戸口勉師(栗東)▽生産者 稲葉牧場▽総収得賞金 1億3162万3000円▽戦績 3戦1勝(地方戦績7戦6勝)

(1994年4月11日付 日刊スポーツ紙面より)※表記は当時