武豊、あんたはすごい、すごすぎる。競馬の祭典「第66回日本ダービー」(G1、芝2400メートル)が6日、真夏の暑さを思わせる東京競馬場で行われ、武豊(30)騎乗の2番人気アドマイヤベガ(牡4、栗東・橋田)がゴール前差し切って快勝した。同騎手は昨年のスペシャルウィークに次ぐ2年連続のダービー制覇で史上初の快挙。道中後方から直線だけで抜き去る芸術的なレースぶりで、腕の違いをまざまざと見せつけた。2着には1番人気のナリタトップロードが入った。時計はダービーレコードタイの2分25秒3。

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武豊は見下ろしていた。17万3340人の大歓声がスタンドにこだまする異様な興奮の中、アドマイヤベガの馬上から、若い渡辺、和田の動き、心理を読む余裕があった。

渡辺ナリタトップロードが和田テイエムオペラオーをかわしに出たラスト200メートル。2頭の直後につけた武豊が初めて左ステッキを打ち込んだ。馬体を沈めてグンと加速するベガ。ラスト50メートルでナリタの外に並び掛けると、一完歩、また一完歩と前に出る。ナリタも最後の力を振り絞るが、道中無理せずためていたエネルギーの差は歴然。直線だけで13頭をごぼう抜き、キッチリと首だけかわしてゴールに飛び込んだ。右手の小さなガッツポーズが史上初のダービー連覇の喜びを表していた。

「前半は折り合いをつけることだけを考えていました。前にナリタもテイエムも見えたし、馬も一生懸命走ってくれました。去年(スペシャルウィーク)みたいに直線余裕がなかったから苦しいレースでした」。大舞台での経験と昨年勝っている精神的な余裕が前人未到の大記録を生んだ。

スタートは良かった。だがすぐに下げ、最後方から3番手の位置で他馬の動きをうかがう。1コーナーではすでに人馬一体。3コーナー過ぎにテイエム、ナリタが動いても微動だにしなかった。「慌てないように自分に言い聞かせました」と、その場面を振り返った。4コーナーを回って馬群の大外に持ち出しても、最後の勝負どころをはっきりイメージ。ナリタにテイエムをつぶしに行かせておいて、ゴールで差し切る、芸術的なフィニッシュだった。

数々の記録を塗り替える武豊だが、順風満帆な騎手人生を歩んできたわけではない。1988年(昭63)有馬記念ではスーパークリークで失格(3位入線)。91年(平3)天皇賞(秋)では断然人気メジロマックイーンでの18着降着、絶対の自信で臨んだ96年のダービー(ダンスインザダーク)では伏兵フサイチコンコルドにゴール前で差される屈辱を味わった。現役最多のG1戦29勝という栄光の一方で、悔しい思いも数え切れない。そんな積み重ねが今回の冷静沈着なプレーにつながった。

先週は競輪の高松宮記念杯の車券を買ったり、共同会見以外でのマスコミとの接触を極力減らしたりなど、1週間を通して昨年とまったく同じ行動を取ってきた。2日の最終追い切りで皐月賞(6着)からの状態アップも確認。自信を持ってのレースだった。

アドマイヤベガの母ベガは同騎手が乗って桜花賞、オークスの2冠を達成した名牝。「母はオークス、子供はダービーなんて、最高の親子ですね。似ているところ? 勝たせてくれるところですね」と報道陣を笑わせた。もはや過去の名ジョッキーの1枚も2枚も上にいってしまった武豊。ダービー3連覇、4連覇の可能性さえ広がる完ぺきな勝利だった。【栗田文人】

◆アドマイヤベガ ▽生まれ 1996年3月12日生まれ。生産者は北海道早来町のノーザンファーム。父はサンデーサイレンス、母は桜花賞、オークスを制し名牝といわれたベガ。▽戦績 この日の勝利で6戦3勝。収得賞金は2億3528万6000円。6戦目でのダービー制覇は史上2位タイの最少キャリア。

(1999年6月7日付 日刊スポーツ紙面より)※表記は当時