記念すべき国際レースとなった今年の安田記念は、外国馬2頭を含む16頭で争われた。直線で先頭に立ったヤマニンゼファーが1分33秒5で優勝、昨年に続いて2連覇を達成した。あん上の柴田善臣騎手はG1初制覇。アメリカのロータスプールは5着、フランスのキットウッドは6着。2着には単勝14番人気の伏兵イクノディクタスが突っ込み、馬連(6)(14)は6万8970円の大波乱となった。

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ジョッキーの右手が高々と上がり、上体がスタンドの方を向いた。1年前のVTRを見るようなゴールの瞬間。ヤマニンゼファーが2年連続優勝したが、派手なパフォーマンスの主だけは違った。カッチー(田中勝春騎手)ではなくヨシトミ、デビュー9年目の柴田善臣騎手が初めてのG1制覇だ。

「気分は最高です。やっとG1がとれた」。ウイニングラン、何度も右手を上げて喜びを爆発させる柴田善とは対照的に、涙が止まらない女性がいた。昨年11月25日に生まれた長男拓実(たくみ)君を抱いた文恵夫人(24)だった。「ありがとうございます」の声が震えた。

頼もしい夫は、目を赤くした夫人を無邪気に見つめる子供とともに、記念撮影に納まった。「馬に力があるんで、信じて緊張せず乗りました」と柴田善。積極的に2番手につけ、残り400メートル地点で早くも逃げるマイネルヨースをかわしにかかった。「頑張ってくれ! それだけを思ってました」と振り返る。

その瞬間、頭の中に4年前、1989年(平元)の桜花賞がよみがえった。ホクトビーナスに騎乗、直線で抜け出したものの、シャダイカグラにハナだけ差されたゴール前。それも一瞬だった。今度は坂を上り切った時も、手綱から伝わる余力は十分だった。「内外、後ろから後続の足音が、束になって聞こえたけど、勝てると思いました」。

栗田師が「力でねじ伏せた感じ。強かったな」と言いながら、柴田善に握手を求めた。がっちり握り返した柴田善は「自分に良い馬が回ってきて、一生懸命面倒見てくれたきゅう舎の方にお礼を言いたいですね」と実感を込めた。昨年の勝利騎手、田中勝が騎乗停止中だった前走の京王杯SCで初騎乗。そしてこの日は、田中勝が新潟遠征(自きゅう舎のセキテイリュウオーで新潟大賞典に出走)したため再び依頼を受けた。

ヤマニンゼファーは放牧休養に入り、秋・天皇賞を目標にするが、継続騎乗は確実。「ありがとう、って声を掛けたのに、ゼファーはしらんぷりしてました」。でも手綱を通して気持ちは伝わっていた。【天野保彦】

◆ヤマニンゼファー ▽父 ニホンピロウイナー▽母 ヤマニンポリシー(ブラッシンググルーム)▽牡6歳▽馬主 土井宏二氏▽調教師 栗田博憲師(美浦)▽生産者 錦岡牧場(北海道・新冠町)▽戦績 17戦7勝▽主な勝ちくら 安田記念(92年)京王杯スプリングC(93年)▽総収得賞金 4億2438万5600円

(1993年5月17日付 日刊スポーツ紙面より)※表記は当時