1番人気ケイエスミラクルが骨折でリタイアするハプニングの中、後方待機のダイイチルビーが直線で目の覚めるような末脚を繰り出し、1分07秒6の日本タイレコードで圧勝。春の安田記念に続いて二つ目のG1制覇を飾り、獲得賞金でもマックスビューティを抜いて歴代牝馬の頂点に立った。

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直線入り口、ダイイチルビーを操る河内の視界に、ようやくケイエスミラクルが入った。「やっと見つけたぞ」。両手にこん身の力を込め、手綱を激しく動かして追い出しにかかった。さあ、関西2強のたたき合いだ。ファンばかりでなく、河内もそう思った瞬間、ライバルは競走を中止していた。

ケイエスミラクルが馬込みに消えた時、競りかける相手は一頭も残っていなかった。残り200メートル地点で先頭、激しい2着争いとは対照的に、ゴールまでは独走だ。河内のアクションに合わせて、華麗なる一族の血がセキを切って流れ始めた。1分07秒6の日本タイレコードで安田記念に続くG1制覇だ。

馬主席では、「パパ!」の幼い声援が小さな手の拍手に変わり、歓喜の輪が広がった。河内の愛妻由美さん(33)の隣で、長男翔太君(4)と次女小姫(さき)ちゃん(2)が抱き合って大喜び。初めて家族を競馬場に呼び寄せた河内には、戦前から自信はあった。「敵はケイエスミラクル1頭。あの馬さえ負かせば」。

出遅れ癖のある騎乗馬と、絶妙に呼吸を合わせて好スタートを切った。「あれでホッとした。馬が暴れる前にゲートが開いたからな」。家族そろっての声援が、しっかりと届いた格好だ。ところが、ケイエスミラクルの姿が見えない。「探したけど、スッと離されちゃって……」。

待機策に切り替え、馬群の外、外を追走。「前はバテると思っていたし、ゴチャつくのも嫌だったから」。メジロラモーヌで牝馬3冠(86年)を達成した男、さすがに牝馬の扱い方は知っている。3コーナー過ぎから徐々に進出、4コーナーでは馬群の中央にできたすき間に割って入り、騎乗馬の能力を完全に出し切った。

「パーフェクトなレース」と伊藤雄師。「たくましくなったし、落ち着きが出て精神面でも大きく成長したからね」と河内のプレーをたたえるとともに、ダイイチルビーの充実を強調した。これでマックスビューティを抜き去り、牝馬の賞金NO・1。最優秀古馬牝馬、最優秀スプリンターのタイトルもほぼ手中にした。

来年は祖母イットー、母ハギノトップレディに続く母子3代での高松宮杯制覇の目標が待ち受けている。「ケイエスミラクルとたたき合って勝ちたかった」。ライバルを思いやる河内は、待ち受ける家族の中に飛び込んだ時、心からの笑顔を見せた。【天野保彦】

◆ダイイチルビー▽父 トウショウボーイ▽母 ハギノトップレディ(サンシー)▽牝・5歳▽馬主 辻本春雄氏▽調教師 伊藤雄二師(栗東)▽生産者 荻伏牧場(北海道・浦河町)▽戦績 15戦6勝▽主な勝ちクラ 京都牝馬特別、京王杯スプリングC、安田記念(ともに91年)▽総収得賞金4億2571万1600円

(1991年12月16日付 日刊スポーツ紙面より)※表記は当時