天才ランフランコ・デットーリ騎手(34)が操るイギリスのアルカセット(牡5)が、3センチの激闘を制した。後方待機策から直線で抜け出すと、激しい激しい追い比べを制した。勝ちタイムは世界レコードの2分22秒1。遠い昔に始まった騎手と調教師の因縁が、日本で大きな花を咲かせた。2着は追い込んだハーツクライ(牡4、栗東・橋口)、1番人気ゼンノロブロイ(牡5、藤沢和)は3着に敗れた。

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長い写真判定の末、電光掲示板の1番上に浮かび上がったのは「14」の数字だった。検量室から飛び出してきたデットーリが、ルカ・クマーニ師(56)の胸に飛び込んだ。「うれしい。興奮している」。抱き合う2人を中心に歓喜の輪ができると、大きな拍手と歓声が沸き上がった。優勝はイギリスのアルカセット。3年ぶりに外国馬が勝った。

赤い「レコード」の文字とともに浮かび上がった「2分22秒1」。89年にホーリックスが記録した世界レコードを0秒1更新した歴史的な一戦は、直線の攻防も史上に残るものだった。

残り300メートルからの激しいたたき合いで前年王者ゼンノロブロイを退けると、最後は内から急追したハーツクライを封じ込めた。休むことなく右ステッキを振るい続けた体力と精神力。「ゴールの瞬間に勝ったと直感した。でも、写真判定が長かったね」。天才の驚異のパフォーマンスに勝利の女神がほほ笑んだ。

96年シングスピール、02年ファルブラヴに続く3度目の鼻差V。2着ハーツクライとの差はわずかに3センチ。デットーリ・マジックは健在だった。「どんな差でも勝ちは勝ち。勝ててうれしい」。絵になる男がニヤリと笑った。

ドラマチックな勝利。そのシナリオは遠い昔に始まっていた。「今の自分があるのはクマーニのおかげなんだ」。85年、若きデットーリはイタリアからイギリスに渡り、クマーニ師の元で見習い騎手となった。「僕にとって師匠であり父親代わり。一番大切な時期を彼のもとで過ごした」。頂点を極めた男の原点だった。

クマーニ師は言う。「私の父も、彼の父を騎手として使っていた。だから、フランキーは生まれる前から知っていたんだよ」。デットーリの父ジャンフランコはJCにも来日したイタリアの大騎手。一方、クマーニ師の父も10度イタリア首位の座に就いた偉大な調教師だった。互いの父親がはぐくんだ不思議な縁が、遠い日本の地で歓喜を呼び込んだ。「この2人で勝てて本当にうれしい」(同師)。

秋晴れの表彰式で、デットーリは大きくジャパンカップを突き上げた。「審議が長かったので派手に喜べずにごめんなさい。ジャパン、アリガトウ」。JCダートを含む4度目のジャンプオフは見られなかったが、天才はまた1つ、伝説を作り上げた。【鈴木良一】

◆アルカセット▽父 キングマンボ▽母 チエサプラナ(ニニスキ)▽牡5▽馬主 マイケル・チャールトン▽調教師 ルカ・クマーニ(英国)▽生産地 クロベリーファーム(米国)▽戦績 16戦6勝▽総収得賞金 3億2386万4000円▽主な勝ちクラ 05年ジョッキークラブS(G2)、サンクルー大賞典(G1)

(2005年11月28日付 日刊スポーツ紙面より)※表記は当時