ダービー3勝、JRA通算2613勝の名手・福永祐一騎手(45)が8日、2023年度のJRA新規調教師試験に合格した。これにより、来年2月末で騎手を引退することになる。“福永番”として取材にあたってきた日刊スポーツ・藤本真育(まいく)記者が取材ノートを振り返る。

   ◇   ◇   ◇

大切な人のために-。それも調教師転身という大きな決断を下した理由の1つなのかもしれない。調教師試験を控えていたある日、福永騎手がこぼした言葉がある。

「(調教師になることは)母も喜んでくれていると思うからね」

そう言った穏やかな表情が印象的だった。

父・洋一氏の栄光、そしてアクシデントをそばで見てきた母・裕美子さんは、息子がジョッキーを目指すと決めた時に猛反対したという。それは騎手という職業が、どれほど危険なものか肌で感じていたからだろう。福永騎手自身も、幼少期から父の姿を見てきた。それでも騎手になりたいという夢を貫いた。

「中学校ではサッカーをしてたし、騎手になろうとは思ってなかった。けど、あるとき『何かで1番になりたい』って思ったんよね。やるからにはその世界で1番になりたいって。体が小さかったから、サッカーでは無理だった。けど、騎手ならなれるかもって思ったんよ」

父がジョッキーだったからという単純な理由ではない。そこに、トップに立ちたいという思いがあり、努力したからこそ日本を代表する活躍ができたに違いない。

福永家の悲願でもあったダービーを18年ワグネリアンで制覇。父と喜ぶ母に「勝ったよ」と報告もできた。それでも拭い去ることができなかったであろう落馬やけがに対する不安。

「喜んでくれていると思う」

調教師となる福永祐一のそのひと言には、心配する母をやっと安心させられる。そんな思いが込められている気がした。【藤本真育】