ゴールドシップなどの名馬を担当した今浪隆利元厩務員(64)が、夢いっぱいの競馬人生を振り返る。毎週水曜付でスタートする手記連載「今なお夢の中」(全5回)。第1回は白毛のG1・3勝馬ソダシ(牝5、須貝)との思い出をつづった。大人気のアイドルホースを担当する裏では、桜花賞前に体調悪化で退職を申し出るなど知られざる苦闘があった。【取材・構成=太田尚樹】

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先週の20日で有給休暇の消化も終わり、正式に退職しました。今は家の周りの草むしりをしたり、嫁さんと買い物に行ったり…。ホッとしたのはありますが、本当にひまです(笑い)。

今だから明かせますが、実は2年前、ソダシの桜花賞の前に「もう仕事を辞めよう」と考えたことがあります。もともと腰痛に悩まされ、この頃からは両足の裏にひどい痛みが出ました。それでも家族から「もう少し頑張ってみたら」と励まされ、仕事を続けることにしました。だから、桜花賞を勝った時は「続けてよかった」と本当にうれしかったです。僕にとっても牝馬のクラシックを勝つのは初めて。レッドリヴェール(14年)が首差で負けたレースでもありましたから。

ただ、体調はなかなか良くならず、痛み止めを飲みながら働いていました。その年の札幌記念の前には両手にも痛みが出て、一番きつかったです。診断はリウマチでした。病院も変えたりして、薬と月1回の点滴が効き、やっと手足とも痛みがましになりました。

ソダシは白毛なので注目もすごかったです。たとえば、パドックを回っている間はずーっと「パシャパシャパシャ…」とカメラの音が鳴りやみません。僕たちは慣れていましたが、前後の馬には気の毒でした。ファンの人からは「場所取りが大変でトイレに行けないから、何も飲まない」と聞いたこともあります。

性格は気難しく神経質なところがありました。特に体に触られるのを嫌がります。だから洗う時が一番大変です。白くて汚れが目立つから、きれいにせなあかんのに…。ただ、甘えたがりでもあります。須貝先生にもよく甘えて、ジャンパーや時計を壊してしまったこともあったみたいです。

そんなソダシには、それまで40年以上の経験の全部を生かしたつもりです。牝馬なのでカイ食いには気を使いましたが、成長に合わせて、体を増やしたい時には残して当たり前ぐらいの量まで増やしました。食べない時には夜に厩舎へ行ってカイバをつけたこともあります。食べてくれずに苦労したレッドリヴェールの経験も生きたと思います。

これからも、もちろん応援します。引退してお母さんになったら、その子供を見るのも楽しみです。僕の夢はまだまだ続きます。本当にありがたいことです。

◆今浪隆利(いまなみ・たかとし)1958年(昭33)9月20日、福岡県北九州市生まれ。15歳で高校を中退して名古屋競馬の騎手候補生に。牧場勤務を経て栗東で厩務員。内藤繁春厩舎、中尾正厩舎、09年から須貝厩舎。ゴールドシップ、レッドリヴェール、ソダシでJRA・G1計10勝。