小倉2歳Sを制したアスクワンタイム(牡、梅田)の全兄ファンタジストは「悲運のスプリンター」だった。

弟と同じく、父ロードカナロアから抜群のスピードを授かり、2016年4月22日に北海道日高町のShallFarmで生まれた。弟と同じく栗東・梅田厩舎所属となり、2歳夏の中京でデビュー勝ち。2戦目の小倉2歳Sも快勝すると、続く京王杯2歳Sも制して、世代を代表する馬になった。

3歳になってもスプリングS2着、セントウルS2着と重賞で活躍。だが、突然の悲劇に見舞われる。デビュー12戦目の19年11月24日、京都芝1200メートルで行われた京阪杯。17番枠から好スタートを切り、好位につける。気持ち良く走っているように見えた。だが、3、4コーナー途中で急失速。残り600メートル手前でつまずき、バタリと倒れた。急性心不全だった。騎乗した浜中騎手も落馬してターフにたたきつけられ、骨を合計12本も折る大けがを負った。陣営にとって、とてもつらい出来事だった。

あれから3年半以上の月日が流れ、兄と全く同じ血統の弟アスクワンタイムが躍動した。兄が初重賞制覇を飾った小倉の地で、同じレースを制した。兄も管理した梅田智之調教師、兄も所有した馬主の広崎利洋さんの感慨は、いかばかりか-。凡人の記者には想像できない。

アスクワンタイムの誕生日は、2021年4月4日。つまり、兄の悲劇の後に、母ディープインアスクに兄と同じ父ロードカナロアを種付けして、生まれたのだ。関係者はどんな思いを託し、この馬の誕生を待っていたのだろうと考えると、胸が熱くなってくる。

アスクワンタイムの馬生は、まだ始まったばかり。わずか3歳で突然天に召された兄の分も、速く、強く、たくましく、思う存分にターフを駆け回ってもらいたい。