日本が誇る世界一のサラブレッドが、感動の圧勝劇を披露した。イクイノックス(牡4、木村)が単勝1・3倍の人気に応え歴代最多に並ぶ国内外G1・6連勝を達成。総獲得賞金で史上初の20億円突破を決めた。

ステッキを使わず3冠牝馬リバティアイランドに4馬身差をつけた。勝ちタイムは2分21秒8。C・ルメール騎手(44)は武豊騎手に並びジャパンC最多勝となる4勝目。今後は有馬記念(G1、芝2500メートル、12月24日=中山)での古馬秋3冠制覇を含め、さまざまな選択肢が検討される。

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あふれ出た。ルメール騎手が朱色に染まった目元を右腕で覆った。141秒のドラマを演じウイニングランを終えたイクイノックスの上で、8万人以上が集うスタンドを前に、涙がこぼれた。「アドレナリンが高まって、喜ぶ皆さんの姿を見て感情が湧いてきました。プロとして完璧を目指しているので、泣くことはめったにない。説明できない、非常に特別な感情でした」。フランスからキャリアを始め今年で24年目。百戦錬磨の名手が感極まった。

次元が違った。下馬評通り、パンサラッサが大逃げ。イクイノックスは3番手。ターフビジョンに1000メートル通過57秒6の計時。どよめきが起こる。走りは悠々。残り600メートル。逃げ馬から4秒、20馬身差。残り400メートル。手綱は緩まない。残り350メートル。手が動いた。残り250メートル。抜き去った。スタンドが沸き立つ。鞍上が1、2度ちらっと左側のビジョンを見る。残り100メートル。右後方を振り返ったが、恐怖は感じない。最後は減速しながらゴールイン。ステッキは1発も入らなかった。

ルメール騎手 この馬の走りは信じられません。言葉はもう…、ありません。

キャリア初の中3週。前走の天皇賞・秋はレコード勝利。反動が心配されたが、杞憂(きゆう)に終わった。デビューから全レースで手綱を握るルメール騎手は「賢いし、ポニーみたい。誰でも乗れると思います」と、ちゃめっ気たっぷりに乗り味を表現した。

歴史に名を刻んだ。ジャパンCを勝利し1着賞金5億円+付加賞386万4000円を加算。海外を合わせた総獲得賞金は22億1544万6100円。G1・9勝の名牝アーモンドアイの19億1526万3900円、父キタサンブラックの18億7684万3000円を抜いた。今年のドバイシーマCを制しているため、褒賞金200万ドル(約3億円)も獲得。世界各国の競走馬をランク付けする「ワールドベストレースホースランキング」で凱旋門賞勝ち馬などを抑えて1位の実力を、数字でも示した。

今後は有馬記念参戦など多様な選択肢が検討される。ルメール騎手は「世界一の馬で勝つことができ、美しい瞬間をともにできた。来年も乗りたい? そうなったらいいね」と笑みをこぼした。不世出の名馬はどこまでインパクトを残すのか。青鹿毛が紡ぐ夢の続きは、想像を超え続ける。【桑原幹久】

◆イクイノックス ▽父 キタサンブラック▽母 シャトーブランシュ(キングヘイロー)▽牡4▽馬主 (有)シルクレーシング▽調教師 木村哲也(美浦)▽生産者 ノーザンファーム(北海道安平町)▽戦績 10戦8勝(うち海外1戦1勝)▽総収得賞金 22億1544万6100円(うち海外4億5889万100円)▽主な勝ち鞍 21年東京スポーツ杯2歳S(G2)、22年天皇賞・秋(G1)有馬記念(G1)、23年ドバイシーマC(G1)宝塚記念(G1)天皇賞・秋(G1)▽馬名の由来 昼と夜の長さがほぼ等しくなる時

<アラカルト>

☆G1出走機会6連勝(84年のグレード制導入後、海外含む) テイエムオペラオー(00年天皇賞・春~01年天皇賞・春)、ロードカナロア(12年スプリンターズS~13年香港スプリント)と並ぶ史上最多連勝(他2頭は間にG2の敗戦を挟んでいた)。

☆JC父子制覇 16年に父キタサンブラックが勝っており6組目、7勝目(ディープインパクトの子ジェンティルドンナが12・13年に連覇している)。

☆ドバイシーマクシック勝ち馬の同年JC勝ち(00年以降) 6頭目の参戦で史上初。これまでは昨年のシャフリヤールの2着が最高だった。

☆天皇賞・秋勝ち馬の同一年JC勝ち 99年スペシャルウィーク、00年テイエムオペラオー、04年ゼンノロブロイ、20年アーモンドアイに続き5頭目。