「娘の嫁入り前のお父さんの気持ちです」

戦いを終えた愛馬にほおを寄せ、酒井慎調教助手は優しいまなざしで思いを言葉にした。

自身の重賞初制覇も含めてDG競走3勝を挙げたアーテルアストレア(牝6、橋口)が、3日のJpn3兵庫女王盃(2着)でラストランを走り切った。来週9日には栗東トレセンを離れ、北海道で繁殖牝馬となる。家に帰っても子煩悩なパパは、育て上げた「娘」を送り出す安堵(あんど)とさみしさで胸がいっぱいだった。

SNSでは「あーちゃん」として愛されている。プロデュースしたのが担当の酒井助手。そばで寄り添うからこそ撮れる写真や動画を選んでは投稿して、Xとインスタグラムでは計2万人超のフォロワーがついた。馬の魅力を誰より近い立場から発信してくれる貴重な存在でもある。

かつて手がけたオープン馬ゴーストも同じようにして人気を集め、京都競馬場主催の「アイドルホースオーディション」でトップ5に入り、ぬいぐるみが製作されるまでになった。ちなみに、かわいく撮影する秘訣(ひけつ)は「馬と仲良くして信頼関係を築くこと」だという。

「ゴーストもそうでしたけど、オーナーが喜んでくださって、先生(橋口師)からも『どんどんやって』と言われるぐらい。うれしいです。この子もいい表情をしてくれるんですよ」

園田競馬場での引退レースは、アイドルの卒業ライブのような盛り上がりを見せた。観客席からは「あーちゃん」「アーテル」「酒井さん」と声援が飛び交った。

「アーテルのファンばっかりだったように思えました。感動しました。地方の競馬場なので、お客さんとの距離も近いですし、ウルウルしている人の表情を見て、僕ももらい泣きしそうになりました」

当初はフェブラリーS(9着)で引退の予定も、現役を1戦延長して、前走時に騎乗停止中だった主戦の菱田騎手へ手綱を託した。結果こそ2着だったが、鞍上は3コーナー手前からまくる気迫の騎乗で応えた。

「レース後のユウジ(菱田騎手)の表情や言葉に、グッとこみ上げるものがありました。結果は残念でしたけど、無事に戻ってきてくれましたし、悔いはないです。『ありがとう』しかないですね」

別れの日は刻々と近づいている。でも、これで終わりじゃない。「絶対に会いに行きたいです」と牧場での再会を誓う。その子供を手がける未来も心待ちにしている。ちょっぴり切ない“バージンロード”の先には、夢の続きが広がっているはずだ。【太田尚樹】