ふじの井酒造/新発田市
「昔ながらの小さい蔵ならではの手作りを大切に、心を込めて醸しています」と小林社長

 新発田市の藤塚浜からすぐの場所に、歴史を刻んだ3つの蔵が残る。1886年(明19)の大火で約500軒あった集落の約半分が焼け、ふじの井酒造は土蔵造りの蔵だけが残った。寺社で管理していた過去の記録は焼失したため、この年を創業年としているが、江戸時代から酒造りをしていたと伝わる。飯豊(いいで)連峰からの伏流水が良質な湧き水となって周辺を潤しており、江戸時代には北前船の水の補給地でもあった。

 この湧き水が、ふじの井酒造の敷地内にも「不二(ふじ)の井戸」として湧く。2つとない井戸という意味で、酒蔵の名前の由来にもなっている。軟水だが発酵力が高く、この水で代々辛口の酒を仕込んできた。辛口といっても柔らかく、きれいな後味が特徴だ。

 地元出身の6人の蔵人は、新潟清酒学校卒業生や酒造技能士の有資格者で、高い技術と手造りで酒を醸している。彼らの技術研さんの場となっているのが酒の鑑評会だ。今年で87回を数える関東信越国税局酒類鑑評会では、吟醸酒部門、純米酒部門ともに優秀賞を受賞。純米酒部門の純米吟醸酒が「紫雲の光」だ。

 麹米に岩船産の五百万石、掛け米に北越後産のこしいぶきを使い、吟醸酒といっても華やかすぎない落ち着いた香りで、きれいな味わい。いわば淡麗純米タイプだ。

 この酒は、蔵の新たな取り組みの出発点でもある。酒が飲む人にもたらす「香、旨、切、巾、潤、冴」という6つの徳を楽しんでもらえる自信作を、「六徳」シリーズとして今後展開していく。その第1弾なのだ。「酒はあくまでも嗜好(しこう)品ですが、この酒を飲むことにより、お客様に心地いい『徳』を感じてほしい」と小林政輝社長は意気込む。11月中旬には第2弾となる純米大吟醸酒が、新たなラベルをまとって発売される。小さな蔵の挑戦に注目したい。【高橋真理子】

[2016年11月5日付 日刊スポーツ新潟版掲載]