上越酒造/上越市
蔵元杜氏の飯野美徳さん。創業時の銘柄を描いた貴重な資料を手に

 雑誌の取材で、居酒屋探訪家の太田和彦さんと上越市高田の居酒屋を訪ねたとき、上越酒造の「越の若竹」を飲んだ太田さんは「しなやかに上品で普通酒とはとても思えない」と評した。江戸時代に創業した上越酒造は6代目の飯野美徳さんが1994年から杜氏に。それまでは「頚城杜氏」がこの蔵の味を担ってきたが、前杜氏の引退を機に蔵元杜氏になることを決断。

 「その頃は杜氏が代わると蔵の味が変わると言われていましたが、それではだめだという思いがありました」。教科書を読み、麹造りは前杜氏に一晩つきっきりで指導してもらい、新潟県醸造試験場の先生に指導を仰ぎ、自身の酒造りを追求。95年の関東信越国税局酒類鑑評会で入賞し「漠然とした自信がもてました」と振り返る。

 この蔵ではすべての酒を槽(ふね)で搾る。自動圧搾機はない。もろみを袋に入れて槽に並べ、たれてくる酒は、機械搾りでは出せない味わいに。搾った直後の薄くにごり、まだ完成されていない酒をタンクに貯蔵し、「おり」が沈んだらそれを除く。「まろやかに変化していく過程が面白い」と飯野社長。蔵人も「感性で造る酒」に魅力を感じている。

 今回の1本は純米吟醸の搾りたて生原酒。銘柄は「越後美人」だ。元々「若竹」の銘柄だったが、戦争中に酒造りを中断し、1956年(昭31)に復活するときに「越後美人」の銘柄が誕生。その後、約20年前の淡麗辛口ブームの頃に、辛口のきれいな飲み口の酒として「若竹」が復活。

 今回の1本のラベルは飯野社長自らが揮毫(きごう)しているが、メイン商品の文字は、「越後美人」は写真家の浜谷浩氏が、「越の若竹」は陶芸家の斉藤三郎氏が揮毫。2人ともこの蔵の酒をこよなく愛していた。蔵の宝である縁と古式を大切に、そこに感性が加わり、蔵独自の味わいが生まれる。【高橋真理子】

[2017年3月25日付 日刊スポーツ新潟版掲載]