渡辺酒造店/糸魚川市
消費者目線で、地酒に普遍的を追求する渡辺吉樹社長

 新潟県の西端に位置する糸魚川市は、長野県境から日本海に注ぐ姫川沿いにヒスイ産地があり、フォッサマグナでも知られる地だ。姫川の支流の1つに、日本百名山の雨飾山に源を発する根知川がある。川沿いの根知谷で、米作りから酒造りのストーリーを商品に託している蔵が渡辺酒造店だ。西頸城にある7つの谷のうち、唯一東西に開けた米栽培の好適地、根知谷で「五百万石」と「越淡麗」を単一栽培し、その年の米を等級ごとに「Nechiブランド」として商品化。原料から一貫生産するワインの取り組みを日本酒業界で体現している。『Nechi2014 根知谷産五百万石壱等米』。ワインを思わせる風ぼうの純米吟醸酒が今回の1本だ。

 「蔵が違えば酒の味も違う。でも日本酒の世界ではそれを表現できていません。今まで日本人同士のあうんの呼吸で何となく伝わっていましたが、これからは積極的な発信が不可欠」と、6代目の渡辺吉樹社長は力を込める。渡辺社長が蔵の普遍的な価値として打ち出しているのが「根知谷」という土地だ。

 渡辺酒造店が自社栽培による酒米生産に取り組んだのは2003年。06年には代表銘柄『根知男山』とは別にNechiブランドを立ち上げ、翌年から販売を開始。無農薬栽培の五百万石で特等米を産出、ロンドンで開催されているIWCチャンピオンSAKE受賞などを経て、11年に全量根知谷産の酒米による酒造りを達成した。

 順風満帆に思えるが、「大変でした」と渡辺社長。酒造体制の変革から農地の確保まで。「田んぼを放棄した方がいたら伺って話をし、粘り強く地元の人たちと付き合いながら自社栽培米を増やしていきました」。当初10年計画だった自社栽培100%は13年に80%に。蔵元が生産者となり自社田で栽培した酒米だけで酒を造る〝ドメーヌ・スタイル〟の完成も近い。

 さらなる取り組みも始まった。所有林の杉を使い、根知谷の木、石、土、職人の手で出荷管理棟を建設する。1階に直売所、2階に研修室を備える。4月から建設を始め完成は2年後の予定だ。新たな地域循環に期待したい。「最終的には土地に集約する。それが究極の蔵のオリジナルです」。言葉から根知谷への愛情と誇りがあふれる。【高橋真理子】

[2016年1月23日付 日刊スポーツ新潟版掲載]