巨人阿部慎之助捕手(40)の千里眼をクローズアップする。10月13日、阪神とのCSファイナル第4戦、同点の6回2死三塁。意表を突いた丸の“セーフティースクイズ”を、独自の視点で捉えていた。

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着信音が鳴り、スマートフォンにメッセージが届く。阿部は目を細め、距離を遠ざけながら焦点を合わせる。「最近、これが必需品になっちゃったよ」。バッグからおもむろに老眼鏡を取り出す。「まだ一番、弱いのだけど。めちゃくちゃよく見える。ずっとつけてるとクセになっちゃうから、必要最低限にしてるけどね。本当にいきなり老眼になったよ…」と年齢を実感する。

「目」は衰えても「眼力」は健在そのものだった。阪神とのCSファイナルで、丸が絶妙な“セーフティースクイズ”を決めた。好投する相手先発の西から決勝点をもぎ取り、文字通りマウンドに沈めた。今季最大のビッグプレーを、ベンチの阿部は3つの根拠をもとに予知していた。

「丸は試合前に、バントケージの最後に絶対セーフティーバントをする。順番的に俺の前後なんだけど、いつもやってるでしょ」

試合前からチーム全体を見渡し、誰が、どこで、何をしているか把握している。捕手時代はロッカールームでの投手の顔つきを観察。リードに生かした。一挙手一投足、さらには表情から投手の状態を感じ取り最善を引き出す。当たり前のようにやってきた作業は主将となり味方の野手に対しても浸透していった。

「丸は、打席に入るときに、守備位置をほぼ確認しない。それが彼のルーティン。でも、あのときは内野の守備位置を確認した。いつもと違うなと思った」

取るに足りない小さな変化は、大きな変化への胎動。1点を争う試合ならなおさらで、何度も痛い目にあってきたし、逆に敵の虚も突いていた。ギリギリの駆け引きが繰り広げられる勝負の世界では、必要不可欠な資質だ。

「西が好投していたし、ヒットを打つのは簡単じゃない状況だった。しかも、丸の状態はそこまで良くない。普通に打ちにいっても分が悪いと、本人も感じていたと思う」

レギュラーシーズンでの丸と西の対戦成績は12打数2安打で打率1割6分7厘。打点はソロの1打点だけ。くだんの試合も三邪飛、二ゴロ併殺に倒れていた。5回終了時点で1得点。チームとしても攻め手を欠いていた状況から次の得点が勝敗を大きく分けることは明らかだった。

老眼が進み小さい文字を読むのは苦になってきた。だが、チーム全体に目を配り、試合の流れ、勝負どころを見極める洞察力は、年を重ねるごとに研ぎ澄まされていった。「丸のセーフティーはすごいプレーだった。これが野球だし、これが勝負。若い選手もこういうのを学ぶべき。勝つために必要なことが詰まっていた1プレーだった」。大勝負の1プレーのために、地道な準備を積み重ねる。常に勝負を意識することを習慣にする。戦局をかぎ分ける状況判断が勝負を決める。

試合後の原監督は「サインではありません。丸自身が状況の中で『フォア・ザ・チーム』のプレーだった。全員の勝とうという気持ちが集約されていた」と丸を評した。阿部の「眼」にも、その背景までハッキリと見えていた。(つづく)【為田聡史】