秋の風が吹いてきました。幾分と気温も涼しくなりましたが、さらにひんやり…いやゾッとする怖~い話をお届けします。“オバQ”の愛称で親しまれるDeNA田代富雄巡回打撃コーチ(67)の怪談です。「風もないのに」「誰かいる」「朝方の訪問者」「カーテンの血」など、全8本。信じるか、信じないかはあなた次第。ただ、本当にあった体験談という事実だけは強調してお伝えします…。【取材・構成=島根純】

1984年、大洋時代のDeNA田代富雄巡回打撃コーチの打撃フォーム
1984年、大洋時代のDeNA田代富雄巡回打撃コーチの打撃フォーム

◆風もないのに 昔の(ファーム施設のあった)長浦は結構、出たんだよ。俺が2軍でコーチをやってた頃だ。練習場の横に夏みかんの木があってな。夜になると、なんか、揺れる。練習が終わって近くのラーメン屋で1杯やってた。一緒に飲んでた2軍マネジャーの大川に「あの木、なんかあるなぁ」って言ったら「気のせいですよ」って笑われてな。「そうかぁ?」なんて言いながら、夜は更けていったんだよ。で、ほろ酔いになって店を出てよ、合宿所に帰ったんだ。で、その夏みかんの木に近づいたら、ガサッ、ガサッて大きく揺れたんだ。風なんか吹いてねぇ。2人で顔見合わせてな。「田代さん…」「おう…」。酔いなんかさめちまったよ。あそこは、いたな。

◆誰かいる やっぱり、遠征先ってのも多いんだよ。牛島監督の頃だったな。大阪の宿舎に泊まったんだよ。俺の部屋の方に行こうとしたら「ウッ」って胸が詰まってよ。なんだか空気が嫌なんだ。山口先生って理学療法士の先生もいたんだけど「田代さん、これヤバイです」って言われて、完全にビビった。部屋に入っても、なんかよどんでる。嫌だなぁ、嫌だなぁって思いながら、早く風呂入って寝ようと思ったんだ。浴室に入って、シャワーからお湯を出した。で、髪を洗おうと思って頭にぶっかけたら、背後に人の気配があるんだよ。

後ろに、いる。

やべえ。下向いたら、それが見えちまう。気づかないふりして、ずっと上向いたまんまシャワー浴びたよ。流し終わって、意を決して振り向いたら誰もいなかった。もう、怖くなっちまってよ。とりあえず部屋から逃げ出したよ。

◆2人で金縛り 広島でもあったな。当時の宿舎で、誰かが幽霊を見たっていうからよ。ビビって、山下さんの部屋に行って「寝かしてください」って頼んだんだよ。ツインだったから、空いてる方で寝かしてもらった。眠りに落ちて…真夜中だ。息苦しくて目が覚めた。

意識はハッキリしてんだけど、体が動かない。「どうにかしないと」と思うけど、指の1本も動きやしねえ。動け、動けって冷や汗ダラダラかきながら、どうにか動いたんだな。ベッドからドォォォーンって転がり落ちた。慌てて隣で寝てた山下さん起こしてよ。そしたら寝ぼけまなこで「そんなの大丈夫だろ!」って怒られてな。でも、それで安心して、そうだよなって思いながらもう1回寝たんだ。翌朝。山下さんが血相変えて俺を起こしてよ。「お前があんなこと言うから、俺も金縛りにかかったよ…」って。2人して、そんなことあるか?

◆朝方の訪問者 次は名古屋だ。現役時代、ホテルで寝てたんだ。そしたら、コンコンってノックする音で目が覚めたんだ。まだ3時、4時だぞ? 誰だ? って思ってドアの前まで行ったんだ。のぞき穴を見たら、ホテルの浴衣を着ている人が立ってる。でも、顔が分からないんだよ。うまく言えねえけど、ぼんやりしてる。

誰か起こしに来たのかなとか、カギかけたよなとか、いろいろ考えて、もう1回、のぞいたんだよ。

次は、ハッキリ見えた。

人だってのは分かるんだけど、顔が、ない。

叫んだね。「ウオオオオオオオ」って。そしたら、スッて消えた。ドアを開けたら、誰もいない。慌てて隣の先輩の部屋に飛び込んだよ。先輩は「田代、お前、すごいうなされてたぞ。『うううぅ…うぅ…うううぅ…うぅ』って隣の部屋まで聞こえてきたからな」って言うんだ。でもよ、俺はぐっすり寝てたんだぜ? そのうめき声、本当に俺のだったのかな…?

◆叫び声 トンネルってのは怖いんだよ。横浜の2軍監督やってた時だ。横須賀からの帰り道、午後11時くらいだったかな。「今日も疲れたなぁ…」なんて思いながら1人で車を運転してたんだよ。2軍施設の近くにあるトンネルにさしかかった時に、イヤな感じがしたんだよな。早いところ通り抜けちまおうと思って、アクセルを踏み込んだんだ。半分を過ぎて、もう抜けるってとこだ。

「ワァッッ!」って助手席から叫ばれた。男の野太い声だ。びっくりしてハンドル切って、中央線をはみ出しそうになったよ。周りは真っ暗。トンネル特有の薄暗いオレンジ色の明かりと、ヘッドライトだけ。ゾッとして、家まで飛ばしたよ。聞いたらそのトンネルの近くは昔、病院だったらしいんだ。そこからその場所を通る時は大声で歌うようになったよ。

◆白髪 宿舎はやっぱり怖いんだよ。北海道に遠征に行った時だ。部屋に入った時に「ウッ」ってなったんだよ。空気が重い。嫌だなぁなんて思いながら、酒飲んで寝たんだよ。で、何事もなく朝になった。あぁ良かったと思って、椅子に腰掛けて、たばこに火を付けた。灰を落とそうと思って灰皿を見たんだよ。そしたら2個重なってんだ。変だと思って、上の灰皿を取ったら、叫んだよ。下の灰皿に大量の白髪が入ってたんだよ。びっしりだ。おかしいだろ。そんなとこに白髪が入ってるなんて。逃げるようにチェックアウトしたよ。

◆カーテンの血 もう1つ、宿舎だ。沖縄に泊まってた時だ。チームの中に霊感のあるやつがいてよ、俺の部屋がヤバイって言うんだよ。俺は何にも感じてないから、バカ野郎って言って寝たんだ。夜中の0時過ぎぐらいだ。苦しいんだよ。胸のあたりに、いる。薄目空けてみたら、真っ白い子どもが乗っかってるんだ。跳びはねてんだよ。うわぁ、怖えって思って目ぇつぶってたら、寝ちまった。

で、朝になって、霊感があるやつが部屋に来たんだよ。「大丈夫でしたか?」って。「子どもが出たよ」って言おうと思ったら、「田代さん!後ろ!」って叫ぶんだよ。振り返って窓のカーテンを見たら、血しぶきみたいなシミがベッタリ。壁には人の手の跡がびっしりついててよ、腰抜かしそうになったよ。

◆隣に人が 車もある。新車を買ってさ、ゴルフに行ったんだ。友達と現地で合流して、ラウンドしてよ。終わったら、飯でも行くべーって高速に乗ったんだ。そしたら後ろについてた友達の車がグワァーって速度を上げて追い抜いていったんだよ。合流する店に行ったら、そいつらが冷やかすんだよ。「横に女の人乗っけてましたね」って。おいおい、何言ってんだ。お前ら、俺が1人で乗り込んで、高速に乗る時も後ろにいたろ。いつどこで乗せんだよって言ったら、見る見る顔が青冷めていってな。「じゃあ、あれは…」って顔見合わせてんだよ。

その車はどうやら、いたらしくてな。後日、家でくつろいでて、息子が帰ってきたんだよ。そしたら「父ちゃん、車に人が乗ってたよ」って言うんだ。気味が悪くて数年で乗り換えたよ。

(※2015年、2019年、日刊スポーツ紙面でそれぞれ掲載の話を再構成しました)