「自由律俳句」の第一人者である種田山頭火の句を紹介することで、野球界の後輩たちに何かヒントとなればと勝手に願い、連載を書いている。

流浪の旅を続ける中で人間の弱さを悟り、絶望を感じ、それでも何とか光を見いだそうともがく。心をはき出す句の中に、特に強烈な強さを感じる。

闇を尊べ、光を包むのは闇である

普通なら、闇を照らす存在として光を捉える。山頭火は逆で、闇の中に光を包括している。闇があるから光が映えることを、経験から分かっているのだろう。

昨年まで在籍した巨人で大いなる魅力を感じていた2人の若駒に、この句を送りたい。

2月、春季キャンプで特守を受ける巨人村上海斗
2月、春季キャンプで特守を受ける巨人村上海斗

奈良学園大から17年ドラフト7位で入団した、村上海斗外野手。投手目線で、ものすごく気になっていた。相手を圧倒する体格、抜群の身体能力、肩が強い上にコントロールも良く、足もファームではトップランクだった。

問題は打撃だ。動体視力が劣るのか、体の問題かは分からないが、タイミングの取り方が悪かった。自分の見解では、このタイプの打者には同じ球種を続けなければ危険はない。加えて、ストライクのボールを選びすぎる慎重さが災いしているようにも見えた。

王貞治さんから現在の一流打者まで、タイミングの取り方は千差万別。正解はないんだから、村上流を見つけることが大切だ。自分のタイミングで、もっと厚かましくバットを振りにいってはどうだろうか。投手からすれば、間違いなく脅威だ。

大打者だった西鉄の大下弘さんに「どのようにヤマを張りますか」と聞いたことがある。大下さんは「ヤマは張らない。投手は『今から投げますよ』と言って、体の前のストライクゾーンに投げてくる。嫌いなボールはヒットにして、好きなところをホームランにすればいい」と言われた。天才にはかなわないが「村上君、この精神だよ」と伝えたい。

2月、春季キャンプで守備練習する巨人山上信吾
2月、春季キャンプで守備練習する巨人山上信吾

もう1人は、投手から内野手に転向したばかりの山上信吾。群馬の常磐高から育成ドラフト2位で入団した村上の同期だ。投手として高い資質を感じていたので、個人的に転向を残念に思っているが、いろいろ悩み抜いた末の決断だろう。

長身から150キロオーバーの直球を投げ、直球と同じタイミングでフォークボールを投げる。ベース板の近くで落ちる、質のいいフォークだった。鶴が立っているようなシルエットは、大洋のエースだった遠藤一彦のよう。腰回りが少し硬く、骨盤がスムーズに回りにくい弱点まで似ていた。

2軍戦で経験を積み、いずれ支配下へ…思うようにいかなかったと推測する。村上も今季途中から左打ちに取り組み、試行錯誤の日々だろう。2人が秘めている無限の可能性に期待しているからこそ、前日の藤浪晋太郎君に続けて紹介させてもらった。(つづく)

◆小谷正勝(こたに・ただかつ)1945年(昭20)兵庫・明石市生まれ。国学院大から67年ドラフト1位で大洋入団。通算24勝27敗。79年からコーチ業に。11年まで在京セ・リーグ3球団で投手コーチを務め、13年からロッテで指導。17年から昨季まで、巨人で投手コーチ。