大の西武ファンのピアニスト、清塚信也(38)が野球とピアノの相通ずる世界に触れながら、侍ジャパンにエールを送った。各界の一流に聞く「侍を語ろう」。数々のピアノのコンクールで賞を受賞し、世界を舞台に活躍するピアニストの観点から、あふれる野球への思いを言葉で奏でた。【取材・構成=久保賢吾】

ピアニストの清塚信也氏
ピアニストの清塚信也氏

ピアニストとして、世界を舞台に活躍する清塚は、極限の中で響かせる1音と野球の1プレーの重みを重ね合わせた。

清塚 ピアノは1音、1音、野球は1プレー、1プレーに正解があります。間違っちゃうと修正がきかない。レはレだし、レを弾いてからドを弾こうというのは無理。ミスが明確にわかるという点で似てるかもしれないですね。

野球の魅力を「誰がやるプレーかがわかりやすくて、責任の所在がはっきりしてるところ。極限状態でプレッシャーとの闘いの中で」と説明した。「侍ジャパンの試合で言えば、鳥谷さんの盗塁」と13年WBCの台湾戦、1点を追う9回2死一塁で二盗を決めた鳥谷の“神走塁”を挙げた。

清塚 普通に生きてる人間じゃ、精神的に無理ですよね。それを走れるわけじゃないですか。足が速いとか、そういうのを超えた、心の面での人間のすごさとかが見える気がします。

交流戦の西武戦でソロ本塁打を放つヤクルト村上(2021年6月5日撮影)
交流戦の西武戦でソロ本塁打を放つヤクルト村上(2021年6月5日撮影)

東京オリンピック(五輪)では、2人の若武者のプレーを楽しみにする。西武平良、ヤクルト村上の最年少コンビの名を挙げ「彼ら世代や下の世代はひょうひょうとしてる。我々が若いころはガチガチが当たり前だったのに、『オレはオレだから』っていう雰囲気がある。それがいい作用をしてる気がしますね」と注目する。

清塚 それが世界を舞台にしても出るのかを見てみたいです。世界がどれくらい驚かされるかも楽しみですし、2人の最年少ハーモニーがどう響くか。

音の“共通言語”を通じ、世界中の人を感動させ、魅了する。完璧が求められる舞台で、成功を収めるためのメソッドはあるのだろうか。

清塚 いつもやれてること以外はやれないって思って挑む。夢見ても絶対ダメで、寝ても覚めてもパッと出てくる、いわゆる考えないで出る技術しか舞台では出ないので。力以上の力が出たとしたら、それは運というか、宝くじに当たったような状態ですから。

根底には自らが積み上げたスキル、パフォーマンスへの自信がある。確固たる信念のもと、独自の思考法が、唯一無二の演奏へとつながる。

清塚 例えば2時間のコンサートだとしたら、最初の40分くらいミスなくいければ、今日はほぼほぼ何があっても、いい舞台でしたと自分の中でなる。そうするとプレッシャーが消えて、遊び心が出てくる。だから、その土台を作るために、最初の加速する時は普段できることだけをやるぞって。変な気負いを捨てるってことが大事かなと。

小学校中学年のころ、埼玉・所沢在住だった縁で西武ファンになった。毎日、ピアノの猛練習に励む中、西武の結果が唯一の楽しみだった。「工藤さん、秋山さん、辻さん…。かっこよかったですねぇ」。

西武平良(2021年7月1日撮影)
西武平良(2021年7月1日撮影)

思いが通じ、今季の「ライオンズフェスティバルズ」では、ビクトリーエンブレム「WE ARE ONE」のテーマ曲を担当する。幼少期は選手のプレーのかっこよさに魅了されたが、年齢を重ね、野球の見方も変わった。

清塚 源田選手とか、プロの選手の動きって、柔らかいんですよね。ピアノも柔らかく、特に手首を柔らかく弾かないといい音が出ないんですよ。強い音もガチガチだと出ない。中村選手もフニャーと打ってるように見えるけど、一瞬すごい力が入ってると思うんです。力の入れ方、体の使い方は勉強になります。

1日のスケジュールは、試合を観戦するために組む。五輪の出場国も決定し、観戦プランは立てたのだろうか。「楽しみにしてるんですよ。高木選手、愛斗選手、楽しみな選手がいっぱいいます」とニヤリと笑いながら、五輪の時期に開催されるエキシビションマッチに触れた。

今では俳優に加え、人気番組「人志松本のすべらない話」に出演するなど、マルチに活躍する。場を和ませる“ボケ”とは気づかず、「あっ、いや…、五輪の…」と真面目に質問する記者に笑顔で返した。

清塚 チームのためにやってるスター選手の姿ってめちゃくちゃ、かっこいいですから。バントも喜んでしますとか、そういう一丸となっているところを見たいですね。(敬称略、この項おわり)

◆清塚信也(きよづか・しんや)1982年(昭57)11月13日、東京都生まれ。5歳からクラシックピアノの英才教育を受け、桐朋女子高等学校音楽科を首席で卒業。00年に第1回ショパン国際ピアノコンクール in ASIAで第1位など、国内外のコンクールで数々の賞を受賞する。ドラマ「のだめカンタービレ」では玉木宏演じる「千秋真一」の吹き替え演奏を担当。昨年の紅白歌合戦では島津亜矢が歌った「糸」をピアノで演奏した。13年に映画「さよならドビュッシー」で俳優デビュー。近年はバラエティー番組でも活躍する。