プロ野球界でも得手不得手、相性はつき物である。例えば、左対左の対戦は投手有利とか、右のアンダーハンド、サイドハンド対左バッターは打者有利などなど……。

 先日、鳴尾浜球場で行われた試合でオリックスが極端なオーダーを組んだ。打順は1番から坂本、岡崎、吉田雄、T-岡田、小島、飯田、後藤、西浦、根本。なんと指名打者を含め8人の左バッターを並べた。確かに最近の傾向を見ると各チームとも左バッターが多い時代だが、阪神の先発投手を見届けてみると、その理由がはっきりした。マウンドに立ったのはサイドハンドの青柳晃洋投手だった。まさしく得手不得手をにらんでの打線だ。

 得手不得手は冒頭で明記した通りで、昔からささやかれていたが、スタメンから見て大きなプレッシャーを背負う立場にあるのは阪神の先発青柳だ。今季3年目。1軍で昨年、一昨年とすでに8勝をマークしている。一応の経験は積んでいるが8人が並ぶ左打者対策。青柳のピッチングに注目することにした。内容は6イニングを4安打4三振3四球で2失点。左に苦手意識を持つ中でのピッチングとしてはまずまずか。それでも本人は「良くなかったですね。ホームランはインコースを狙った球が、真ん中高めに行ってしまいました」の大反省。

 1発を浴びたのは他でもない左バッターのT-岡田だった。左対策は十分に意識しての登板だったはずだが、相手はパ・リーグのホームラン王を獲得した実績の持ち主。格の差はあるかもしれないが、自分をアピールするためには何としても抑えたいバッター。内角を厳しく攻め切れなかった挙げ句の失投が反省の言葉となって出たのだろうが、いまや各チームの打線は左バッターが必ず数人並ぶ時勢。青柳がこの世界で生き抜くためには避けて通れない道なのだ。

 「今日の内容では満足できません」は矢野監督である。なぜなら「彼の場合、基準をもっとレベルの高いところに置いている」からなのだ。要するに1軍に定着するべき投手と見ているからだ。左対策を聞いてみると「確かに右のサイドから投げるピッチャーの球は、左バッターは見やすい。今年から設置したトラックマンで見ても、左打席から見ると球筋もよく見えます。だからといって、避けては通れない道です。ああいう打線と対戦するのも左対策を克服するためにはいい勉強だと思います」と成長していく過程の一環と見ている。ピッチングを担当する高橋建コーチも「サイドから投げる人は、左バッターへの苦手意識はあると思いますので、勉強という意味ではいい体験だと思います」やはり勉強を強調する。

 球は速い。最速140キロ台後半のストレートがある。球威には定評があるのに1軍に定着できないのは、左バッター対策のみならず制球難。そう、コントロールに問題があるからだ。日々勉強。前回の反省。練習で修正してきた成果を試すチャンスが来た。19日の中日戦(ナゴヤ)だ。左対策は青柳タイプの投手には永久的なテーマかもしれないが、コントロールは努力次第で日に日に良くなっていく。ピッチング内容は5回66球2安打6三振、四球と失点0。矢野監督の談話が前回からガラッと変わった。「今シーズンで一番良かった。1軍で勝てるピッチングだったね。次回、もしかしたら……」が全てを物語っている。四球0、確かに大きな成果だ。

 何事も体験だ。良い結果を出せば苦手意識は解消されていく。昨年まで1軍では25試合中24試合が先発投手としてマウンドに上がっている。期待は大きい。早期に成果を出すことが望まれる。「確かに左バッターは嫌です。今、各チーム左バッターがいない打線は考えられません。テーマとしてやっているのは、いかに内角の厳しいところを攻めていけるかと、高低のコンビネーションです。前回は岡田さんに1発やられましたが、今回はインコースへの球と、抜くボールを意識しました。これからは、いつ呼ばれてもいいように準備しておきます」と青柳。1軍の先発枠は現在6人目が流動的。ローテ争いに食い込めるか。

 コントロールはリリースポイントを体で覚えることが基本。ピッチング練習でも指先に全神経をとがらせて投げることだ。【本間勝】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「鳴尾浜通信」)