オリックス金子千尋(2016年12月撮影)
オリックス金子千尋(2016年12月撮影)

なんだかスッキリしない季節がやってきました。寒い時期が苦手ということもありますが、この時期、プロ野球で契約更改が話題になることが多いのもその理由です。年俸が上がった、下がったというおカネの話が注目されるのはご承知の通り。

長い間、この仕事を続けさせてもらっていて思うのですが、近頃は多くの選手が「いくらになりました」ということをめっきり明かさないようになりました。

そこで記者たちがいろいろな取材をして「推定いくら」という書き方をすることになります。このやり方はずっと以前からそうなのですが、特に最近は「推定」の度合いが強まっています。

例えば現在、去就が注目されているオリックス金子千尋投手の場合です。これまで推定5億円と思われていた年俸が実は6億円レベルだったことが判明しました。これも推定なのですが。

そこから球団が5億円のダウンを提示したこともあって今後、金子がどうなるか、というニュースです。

5億円の大きなダウンもそうなのですが、元々の年俸が「億」のレベルで違っていたのはなかなかすごいな、と思いました。

「取材不足ではないか」と言われればそれまでなのかもしれませんが、取材をする立場から言わせてもらえば、正直、これはなかなか難しいのです。

選手や球団に年俸を公開する義務はありませんし、他人の年俸に関することを簡単に明かす球団関係者もいません。

そこで何度も言うように「推定」になるのですが、そこに誤差が生じてくるのは避けられません。金子だけでなく「推定」と実際にもらっている金額が違う選手は他にもいると思われます。

昔はもう少しだけスッキリしていたように思います。

もう24年も前のことですがオリックス時代のイチローの思い出です。

史上初の210安打で大ブレークした94年のオフ。契約更改で年俸が800万円から10倍の8000万円になった後の記者会見でした。

報道陣から「何を買う」と質問されて、彼が「セーターかな。あったかいやつ」と答えたのを覚えておられるファンも多いでしょう。

「どんなセーターやねん。なんぼほどぬくいねん」。記者会見後、そんな突っ込みをイチローに入れた記憶もあります。

それはともかく、質問の前段として年俸が10倍の8000万円になったことはイチローも認めていました。

まさに「彗星(すいせい)のように」ファームから登場した若者が信じられない活躍をして、年俸も10倍アップしたことに意味がある、とその場にいた全員が理解していましたし、これを「推定」にしてもしょうがないという感じでした。

他にこんなこともありました。これもオリックスの選手でしたが、契約更改後に「いくらになった?」という質問に対し、「これ」と言って金額が書かれた紙を見せたのです。

小さい紙片に「5000万円」と記してあったのを今でも覚えています。

大リーグでは年俸は「サラリー・ランキング」として公開され、ネット上で普通に目にできます。今年は日米野球が開催されましたが、この点においては日米の違いは大きいな、と思います。

最近の選手があまり金額を言わなくなった理由には、個人情報が重要視されるという昨今の事情もあるし、気質的な問題もあるでしょう。

最近、ある現役選手と「やっぱり年俸は言いたくないものなのだろうか」という会話をしました。

「そうですね。正直、自分でいくらになったとハッキリ明かして、他の選手がどういう風に思うかはやはり気を使いますよね。でも例えばメジャーのようにNPBとかどこかで組織的にみんなが明かされるのなら、それはそれで別に構わないのでは、とも思います」

こんな意見でした。なるほどなあ、と思いました。「これもある種の忖度(そんたく)なのかな」などと思ったりして。違うか。

とりあえず今回のコラムは性質上、固有名詞が少なくて申し訳ありません。そう書きながら自分も以前より気を使っていることに気付くのですが…。

勤め人からすれば、隣のデスクに座っている同僚の給料は本当はいくらなのか? などと「他人の懐具合」を気にしていては生きていけないのは事実です。

でもプロ選手は「夢の世界の住人」。何かスッキリするいい方法はないのかな、と毎年、思っています。

オリックス・イチローが球界初の年間200本安打達成(1994年9月20撮影)
オリックス・イチローが球界初の年間200本安打達成(1994年9月20撮影)