10月2日、阪神の2022年レギュラーシーズンが終わった。ここが監督・矢野の最後の采配? とあきらめていたら、そうではなかった。広島、巨人が自爆して、タイガースが3位に。これでクライマックスシリーズ(CS)進出が決まった。矢野の監督ラストシーズンはまだ続く。これでまた楽しみがつながったが、その一方で、来季に向け、事は着実に進んでいる。

「岡田彰布、新監督内定!」

この報道に関し、ファンに聞かれる。「ホンマに決まり? 内定やし、まだ変わることもある?」。そのたびにこたえる。この内定…は決定と思ってもらってもいいですから、と。球団は名前を明かさないまでも、報道内容を否定しないし、チームの最後のがんばりの裏で、2023年に向けて、確実に進みだしている。

2008年、巨人にまさかの大逆転を許し、巨人優勝が決まった夜、「この責任を取る」と岡田は静かに気持ちを明かした。あれから14年…。再びタイガースに戻ってくる。ここに至るまでの経緯は複雑でいろいろとあった。ただ最終的な決め手は「優勝できる監督、勝てる監督」の判断だった。

あと2カ月で岡田は65歳になる。阪神では金本、矢野の監督が続き、比較的若いリーダーを誕生させた。その方向性はさらに強まり、さらなる若さを求める声が強くなっていた。それが今岡、藤川、鳥谷らへの待望論。この流れは簡単には覆ることはないと思っていたところに、岡田の再登板。中には時代に逆行しているとの声が上がるが、それを上回る現実論が見直された、ということになる。

岡田がこのまま監督に就任すれば、いきなり12球団最年長になる。60歳代の監督は現状2人。巨人の原辰徳と西武の辻発彦で、彼らは岡田より1学年下。2004年に47歳で星野仙一のあとを受け継いでから、今度は最年長とは…。この年齢を心配するむきもある。

そもそも監督適齢期があるとすれば、現代のプロ野球界、40歳代から50歳代というのが主流になっている。ただ、昔、村山実が兼任監督になったのは34歳だったし、最近では楽天の監督に就任した当時の平石は38歳という若さだった。

反対に高齢での監督ということでは、大リーグにこんな記録が残っている。監督を辞めた時の年齢がなんと87歳…(アスレチックスのコニー・マック監督)。こういう例は異例中の異例なのだが、今回の岡田の65歳就任は、若い世代にはピンとこないだろう。同じ世代からすれば、その底力を見せてくれ! という期待感が多くあると聞いた。

個人的なことになるが、僕と岡田の付き合いは40年以上になる。早稲田大からドラフト1位で入団してから、岡田のプレーを見続け、プライベートでも多くの時間を共にしてきた。とにかく負けることが嫌いで、負けることが許されない生き方をしてきた。1度目の監督の時、優勝を見たし、あの無念の退陣現場も目撃した。巨人に優勝を許した夜。午前3時を回った頃、横浜のホテルの一室で「オレ、辞めるわ」。目を赤くして明かした裏で、負けん気が折れるところがわかった。

あれから14年である。オリックスの3年間監督もあったが、ほとんどがネット裏から野球を見続けてきた。「もう岡田が復帰することはない」とささやかれながら、いつも監督目線で野球を追いかけていた。

性格というのか、頑固さに変わりはない。だけど年齢を重ね、丸くなった。もちろん選手と近い距離にいることはない。現代の若者の気持ちがわかるのか…と否定的な見方もあるけど、前回同様、選手とは適度な距離を置くことに変わりない。ただし、コーチや関係者に聞き、若い考え方に触れようとする変化は間違いなくある。そして今回、何より岡田を突き動かしているのは「オール阪神」という意識だ。

数年前からよく口にしていた。「阪神として力の結束が絶対に必要。オール阪神で戦う。もう1度、そういう時代になっている」。

タイガースがCSに進むことが決まり、就任発表はまだ先のことになるだろう。矢野がどういうラストを飾ってくれるのか。ファンにはたまらぬ展開になった中、水面下では次のステージへの準備が進んでいく。

去る人、来る人…。秋から冬へ。楽しみはこれからである。(敬称略)【内匠宏幸】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「かわいさ余って」)