26日の高校野球大阪大会5回戦。上宮太子のエース森田輝(ひかる)投手(3年)は、5回戦で汎愛に敗れると涙が止まらなかった。

 「不本意な形で3年間が終わってしまった。選手も保護者の方も、甲子園に連れて行けなかった。悔しい。悔いしか残っていない」。3-3の同点に追いついた3回から登板したが、3点本塁打を浴びた。6回にも3失点し6-9で敗れた。昨秋府大会で優勝しながら、センバツ出場を逃し、最後の夏も、甲子園に届かなかった。

 エースとして走り続けた高校野球生活だった。1年の夏、日野利久監督(49)は「片りんが見えた」と森田をエースとして育てることを決めた。今井達也投手(現西武)のいた作新学院や、京山将弥投手(現DeNA)のいた近江など、強豪との練習試合にたくさん登板させた。期待するからこそ、他の選手より厳しく接してもきた。昨夏の大阪大会5回戦。完投も実らず0-3で浪速に敗れた後、森田はベンチ裏で号泣した。「1人で投げさせてごめんな」と最後の夏となった3年生が優しい言葉でなぐさめる中、日野監督は「何泣いてるんや! まだ終わってない! お前がしっかりしなあかん!」とベンチ裏で厳しい言葉をかけた。

 森田も期待を感じ、エースとしての自覚を持った。今春の府大会で準決勝で敗れた後、学校の周りを2週間走り続けた。坂に階段もあるコースを24周で1日20キロ。次の週は中距離ダッシュを繰り返した。「球のキレが出て、安定してきた」とユニホームの太ももの部分が張るのが分かるくらい成長した。

 「自分がチームの柱としてやっている」。エースの自覚があるからこそ26日の5回戦、先発しないことを希望した。万全のコンディションで準々決勝以降を戦うため、頂点を目指すからこそだった。

 6月下旬、取材で訪れた際に見た日野監督の笑顔が心に残っている。「森田に言ってるんです。『お前のことずっと見てるからな。お前のこと大好きだからな』って」。愛があるからこそ厳しくて、厳しいからこそ愛がある。日野監督の優しいまなざしはナイン全員に注がれていた。森田は「監督さんと先生方に感謝です。自分をエースとして使ってくれてありがとうございます」。甲子園には行けなかったが、2年半の努力が消えることはない。【磯綾乃】