「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」。知将・野村克也が好んで使った有名な格言だ。阪神監督だった頃、同時にこんなニュアンスの話も聞いた記憶がある。「シーズンにはなあ。何もせんでも勝てる試合があるし、何やっても負ける試合もあるんや」。最初の格言と合致しているのか。矛盾するのか。正直、分からないのだが、うなずける気はする。

この日の左腕・今永昇太の状態は抜群だった。いくらDeNA戦は昨季の相性がよかったといってもこれは簡単ではない。そんな試合が、借金5で迎えた今季7試合目に巡ってくるのが阪神の苦しい状況だ。

打線は湿りっぱなしだから先発投手が頑張ってもなかなか勝てない。不振の福留孝介を出し、好調の糸井嘉男、かすかに雰囲気が出始めたように見えるボーアを外したのも指揮官・矢野燿大の考えがあるのだろう。そもそも、みんな、あまり元気はないし。

そんな中で気になる場面があった。1点を追う7回だ。この回先頭の大山悠輔が左前打で出た。阪神ベンチはすかさず代走に俊足・荒木郁也を送った。次は4番マルテ。走ってくるか。それとも。とりあえず荒木よ、今永をイライラさせろ。そう思う間もなくマルテは初球を打ち、三ゴロ。力走で併殺こそ逃れたが得点はできなかった。

前日にも同様のシーンがあった。25日のヤクルト3回戦。0-0の7回2死からボーアが四球を選ぶと代走・植田海が出た。ここは走るな…と思っていると次打者・木浪聖也が初球を打ち上げ、遊飛に倒れた。

代走が出たときの攻撃としてはあまりにも淡泊ではないか。外国人打者では細かい指示が難しいかもしれない。あるいはしていないのかも。それにしても、もう少し粘らないとなあ…と首を傾げたくなった。

そもそもこの日の大山にしても、前日のボーアにしても代走のタイミング自体が早いのでは…という思いもある。まだ打順が回る可能性の高い主軸だ。僅差で逃げ切りたいのだろうがブルペンも本調子ではない。

打線が全体的に不振で得点ができない。先発投手は踏ん張っている。こういうとき、監督は焦るものだ。何とかして試合を動かしたい。勝たせたい。それは当然だし、動くべきだろうが、正直、焦ってほしくない。苦しいときこそバタバタせず、どっしりと構えてほしい。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)