これで“5割復帰”だ。熱心な虎党は「何言うてるんや。貯金2や」とお怒りだろうが阪神の戦績ではない。原口文仁がスタメンマスクをかぶっての結果だ。

6月に3試合、9月はこれで3試合で計6試合目。その勝敗は26日まで2勝3敗だったのでこれで5割復帰だ。捕手は自分の成績以上にチームの勝敗が気になるもの。おそらくホッとしていることだろう。

詳しくは虎番記者の記事で読んでほしいが自慢の打撃面でも大いに目立った。2回に出た1発は特に意味があったと思う。先制しながら逆転された直後だけにチームに勢いをつけた。

実直な人柄で変なうわさを聞くことはない。かといってイヤみもないし、本当に両親はどういう育て方をされたのか、と感服する。そんな原口に関して思い出すのは今年2月の宜野座キャンプでの出来事だ。

2月19日に白血病からの復活を目指していた池江璃花子のインタビューが「報道ステーション」(テレビ朝日系)で放送された。池江は競泳選手としてすでに復帰しているが7カ月前のそのころはテレビ出演自体が驚きでもあった。

沖縄のホテルで同番組を見て、大腸がんから復活した原口も見たかな? と気になった。そこで翌日、宜野座で声を掛けてみた。「あれですね。ボクも見ようと思っていたんだけど疲れてしまって寝てしまいました。録画で見てから、またどう思ったか、話したいと思います」。原口はそう答えた。

当時もコラムに書いたがその後日談だ。その翌日、原口と親しくしている同業他社の記者がやはりそのことを質問したそう。取材に答えた後で原口はこんなことを言ったという。

「これ、昨日、高原さんともその話をしていたんです。『見てから感じたことを言います』って答えたんで。そちらからちゃんと連絡してくださいね」

他社のその記者も律義に連絡してくれたのだが、原口にすれば、きっちりとスジを通したということだ。野球選手でこういうことにまで気を配れる人間はなかなかいない。同時にさすがは捕手、とも思った。

梅野隆太郎が1軍に戻ってきても原口は貴重な存在だ。世の中は決して明るいことばかりではない。どちらかといえばその逆である。そんな中、原口の活躍から我々は不思議な元気をもらえる。素直に、そう思うのだ。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

ヤクルト対阪神 7回表阪神1死満塁、2点適時打を放つ原口(撮影・清水貴仁)
ヤクルト対阪神 7回表阪神1死満塁、2点適時打を放つ原口(撮影・清水貴仁)