「優勝のため、勝利のため、チームに貢献したいです」。最近の選手がインタビューなどでよく口にする言葉だ。こんなコメントを「一切、必要ない」とバッサリ切ったのは指揮官・矢野燿大だ。

ちょうど10年前、11年3月25日に発行した著書「考える虎」(ベースボール・マガジン社)でのこと。現役を引退したばかりの矢野が、特に若手に対して熱い思いを語っている。

「試合に出たくても出られない選手たちに、きれいごとはいりません。『他人を蹴落としてでもオレが試合に出る』でもいいし、同じポジションの選手に対して『活躍するな』と思うぐらいでいいのです」

現在は柔らかい雰囲気の矢野だが、これがプロの世界で生きてきた男の本音だろうし、この業界で輝いた人間に共通するものだ。昭和から平成、そして令和になってもそれは不変だ。

シーズンが始まる。初の開幕投手の大役を務める藤浪晋太郎、鳴り物入りルーキー佐藤輝明と阪神は明るい話題が多い。就任3年目の矢野にとっても勝負のかかるシーズンだ。虎党はもちろん、評論家諸氏からの下馬評も高い。実際にオープン戦は首位で終えた。まずは敵地のヤクルト3連戦でスタートダッシュを決めて波に乗りたい。

そんなタイミングで頭に浮かぶのは、開幕の舞台に立てなかった選手たちのことだ。キャンプ、オープン戦を通じて阪神で目立ったのはポジション、1軍ベンチ枠を争う激しい競争だ。佐藤輝の加入によって一気に火がついた。それがチームに好影響を与えている。

だがどんな競争にも勝者がいて、敗者がいる。敗者という表現は正しくないかもしれないが、ここを目指して日々を送ってきた者にとっては、そういう感覚かもしれない。

例えば高山俊だ。2月は好調だったがオープン戦では出場機会が少なかったこともあって調子を落とし、開幕1軍を逃した。代走、守備固め要員としての江越大賀に取って代わられた。

ハッキリしているのは競争は開幕後も続くということだ。ファームにいても「いつでも代わるぜ。そのままでいいんですか」という気配を出し続け、矢野にプレッシャーをかけなくてはならない。当然、入れ替えはあるだろうし、競争ムードが最後まで続くことが優勝への条件だ。対戦相手はもちろん、チーム内でもギラギラした戦いを見せろ。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)