4カ月以上も前、宜野座キャンプの頃だ。15年ぶりに復帰した指揮官・岡田彰布は次々に明確な方針を打ち出していた。中でも特に注目されたのは「中野拓夢の二塁コンバート」と「大山悠輔、佐藤輝明の守備位置固定」だった。

前任の矢野燿大時代は右翼と三塁を兼務していた佐藤輝は三塁固定になった。ここで気づく。二塁も三塁も空いていないとなれば“浮く”選手が出てくる。虎党ならすぐ分かるだろう、糸原健斗である。

チーム全体の若返りもあり、キャンプの時点ですでに控えの立場が決まっていた。売りは勝負強い打撃なのでそれを生かした代打要員である。本人もそれは分かっていたはず。入団以来、ほとんどレギュラー、それに近いところで頑張ってきただけに覚悟のいることだったろう。

だがシーズンは長い。故障はもちろん、レギュラーの不調など何があるか分からない。そんな状況でせんえつながら糸原にこんな話をしたことがある。

「始まってみないと分からんし、頑張らんとね。チャンスはあるやろ」。彼は「はい。そうですね」と言葉少なだったがキッパリ答えた。

「いやあ。見ててみ。実戦、シーズンになったら分かるから」。糸原からすれば明大の先輩にあたるヘッドコーチ・平田勝男もそんな話をしていた。糸原がスタメンで出るために想定されたケースはズバリ佐藤輝の不振だったはず。

チーム、虎党にとって願わくば実現してほしくない状況だった。残念ながら現状はまさにそうなっている。そこで糸原にスタメン三塁が回ってきた。日本ハムとの交流戦では指名打者として2試合のスタメンがあったがリーグ戦は25日DeNA戦(横浜)からこれで3試合目。その間の成績は10打数3安打1四球だ。

延長10回にブルペン陣が打たれ、悔しい敗戦となったが中日の好投手・高橋宏斗を勝たせなかったのは糸原の働きが大きかったと思う。特に7回。1死から狙い澄ましたように左前打を放った。そこから代走・熊谷敬宥の盗塁などがあり、同点にできたのだ。2回にも内野安打を放ち「今季初マルチ」である。

チームにとってベストなのは佐藤輝が復調し、ガンガン長打を放つことだろう。それでも理想的な状況ばかりは続かない。そんなときに、しぶとく働く糸原の存在は貴重だと思う。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

阪神対中日 2回裏阪神1死、糸原は投前内野安打を放つ(撮影・上山淳一)
阪神対中日 2回裏阪神1死、糸原は投前内野安打を放つ(撮影・上山淳一)