センバツに続き、夏の甲子園も戦後初の中止が決定した。各所に及ぼす影響は計り知れない。「あゝ甲子園」と題し、人々の思いとともに紹介していく。

   ◇   ◇   ◇

新型コロナウイルス感染拡大の影響は審判にも及んだ。夏の甲子園は中止となったが各都道県の独自の代替大会が検討されている。アマチュア野球規則委員会副委員長で、アジア野球連盟審判長の小山克仁氏(58)は「審判もしっかり練習して、球児の最後の試合に臨んでほしい」と願った。

緊急事態宣言により、アマチュアも試合中止が相次いだ。約3カ月、試合を裁けていない。感覚を取り戻す時間も必要だ。小山氏は24歳のときアマチュア野球の審判を始めた。以降、16年夏までの30年間、甲子園や東京6大学野球、オリンピック(五輪)などでグラウンドに立った。百戦錬磨の実績だが「本番前に10試合やって、納得いく準備ができたと思えた」と振り返る。感覚を取り戻すのに時間がかかるのは、選手と同じだ。

審判のほとんどは、それぞれの仕事があり、準備の時間も限られる。「グラウンドに立っているつもりで試合の映像を見たり、電車に乗ってる時、車窓に映る電柱を目で追ったりしていた。投手にボールを渡す時も、しっかりした球を投げないと。押し入れに布団を立てて、ボールを投げる練習もしてた。工夫が大事」と語った。NPBの審判でも2月のキャンプ中に3万球以上見て、目を慣らす。炎天下での試合に耐える体力をつけるため、スクワットやランニングも欠かさない。

フィジカルの準備と同じぐらいメンタルの準備も重要だと訴える。審判時代は地方大会の1回戦を、甲子園の決勝と同じ気持ちで臨むことを常に心がけてきた。甲子園を目指すチームがある一方、初戦突破を目標に努力してきた球児も多い。どの試合でも、選手がその1戦に懸ける気持ちは変わらない。「審判も同じグラウンドに入る仲間。選手の気持ちに寄り添って、ジャッジをしないといけない」と強調した。

だからこそ、今年の夏は特別だ。独自大会の開催が決まれば、例年にも増して選手の気合が入る。「最後にかける子どもたちのためにも、審判もしっかり準備して、球児の最後の試合に臨んでほしい」と審判員の奮起にも期待していた。試合は球児たちが培ってきた努力や思いを体現する場。それに全力で応えるのも審判の役目だ。【湯本勝大】