思いのこもったノックだった。城東の永野悠菜マネジャー(3年)が甲子園史上初の女子ノッカーになった。約1分間、内野陣に向かってノックを打った。

「緊張はあったんですけど、ノック前に選手が落ち着かせてくれたので安心して入れた。今日のノックは100点ではないんですけど、楽しかったので満足。これだけ多くの方が見てくださっている前で堂々と立てたのは良かった」。

運動経験はなく、中学時代はオーケストラ部。部員の少なさから「自分も何かしたい」と思い、ノックを打つことを新治良佑監督(35)に志願。誰もいない朝のグラウンドで、監督とマンツーマンでネットに向かってノックの練習をした。新治監督は当時を振り返り、「最初は続くわけないやろと思っていた。部員より練習していた」と努力を認める。徐々に上達し、内野ノックを打ち分けるまでに成長した。

相棒はプレゼントされたもの。22年末のクリスマスに部員からノックバットとバッティング手袋をプレゼントされた。1本目は練習中に折れたが、2本目は部の費用で購入され、「正式に認められたのかな」と喜んだ。

新治監督からの言葉を胸に甲子園に立った。「うまい下手ではなくて、思いが大事」。決して名門校のような魅せるノックではなかった。それでも彼女なりに気持ちを込めた。内野ノックを受けた吉田優内野手(3年)も「いつも通りに打ってくれた。1球1球の思いが強くあるのを感じた」と気持ちを感じ取った。

ノックが終わり、ベンチに下がる前にグラウンドに一礼した。「マネジャーは評価されることがなかった。やってきたことがいろんな方に知っていただけるようになって、目に見えるようになった。やってきて良かった」。試合後にそう話す彼女の表情は明るかった。