第96回選抜高校野球大会(3月18日開幕、甲子園)の出場校が26日に発表される。開会式の入場行進曲はシンガー・ソングライターのあいみょん(28)の「愛の花」に決定している。日刊スポーツでは「愛の花咲くか」と題し、吉報を待つ21世紀枠(2校)の候補校を紹介する。第1回は和歌山の進学校で、昨秋の県大会準Vと文武両道を証明した田辺。76年ぶりの春切符へ、期待に胸を膨らませる。
◇ ◇ ◇
1度消えかけた「夢の舞台」への光が、形を変えて再び見えてきた。田辺は昨秋の和歌山大会の準々決勝で市和歌山を9-2で、準決勝では智弁和歌山を5-2と強豪校を連破。52年ぶりの近畿大会出場を決めた。1回戦で京都国際と対戦し、延長タイブレークの末に2-3で敗戦。惜しくも8強入りを逃した。センバツ出場が絶望的となった中、昨年12月8日に発表された21世紀枠の地区候補9校のうちの1校に名を連ねた。
同校は紀伊半島の南西部の太平洋に面する田辺市内の中心地からほど近い場所に位置する。1896年に創立された伝統校で、「文武両道」を掲げ、毎年100人近くの生徒が国公立の大学に進む県内有数の進学校だ。野球部も1898年に創部され、長い歴史を誇る。旧制の田辺中時代の1947年から2年連続でセンバツ出場し、夏は1995年に1度だけ出場した。その後、しばらく聖地とは疎遠となっていたが、待望のチャンスが巡ってきた。
地域的にも年々過疎化が進んでいることもあり、わずか18人の部員と4人の女子マネジャーで活動している。全員が受験を経て入学し、ほぼ全員が自宅から自転車で通っている。野球部OBで08年からチームに携わる田中格監督(51)は「昔は部員が多かったんですけど、ここ数年で一気に減りました。今は入学してから野球経験者を調べて、スカウティングしています」と笑顔で明かした。
練習は週6日で実施されているが、国公立の大学を目指して塾に通う生徒も多く、平日の練習時間は2~3時間と短い。そんな環境下でも個々の能力は高く、近年では21年に育成ドラフト1位で広島に入団した新家颯(しんや・そう)投手(20)を輩出した。田中監督は「子どもらにとっては『プロ野球選手が身近にいるんやなあ』って、不思議な感覚やと思いますね」。
「雨降って地固まる」ということわざがあるように、少ない人数だからこその利点もある。田中監督は「やっぱり(関係が)密になりますよね。家族みたいなもんですね」。個人個人との接点が増え、指導が行き届くようになった。節目節目では面談を実施し、それぞれの課題と向き合って克服の助言を送る。「少ないは少ないでいいなあって最近、特に思うようになりました。1人1人に自分のエネルギー、時間をたくさんかけられる」と話した。
野球王国・和歌山で準優勝まで上り詰めた原動力は、絶対的エース寺西邦右(ほうすけ)投手(2年)の存在が大きい。最速139キロの直球とキレのあるスライダー、制球力を武器とし、昨秋の県大会では初戦から準決勝まで5試合連続で完投勝利を挙げた。田中監督は「安心感というか、エースがしっかりしているので、そこが大きいです」。チーム全体で練習時間の約7割を課題の打撃練習に活用し、力を付けた4番の山本陣世(じんせい)内野手(2年)は、市和歌山戦、智弁和歌山戦で本塁打を放つなど、勝負強さが光る。
チームは「愛される野球部になろう」をモットーに、野球以外の取り組みにも力を注ぐ。オフには校外でのランニングメニューを行うと同時に、浜辺やお寺で清掃活動を行う。学校近くの高山寺では、年末に大掃除を実施することが恒例。また、「一番は野球人口が減ってきているので、何とかしないといけない」と、8年ほど前から12月には地元の少年野球チームや野球未経験の小学生との交流を行うなど、地域の野球振興にも重きを置いている。
田中監督は甲子園について「自分も選手としても、監督としても行ったことがない。子どもらにとっても夢の世界だと思います」と表現した。出場が厳しい状況から21世紀枠での可能性が出てきたことで「また子どもらのモチベーションも変わりましたね」。主将の山本結翔内野手(2年)は「一番はドキドキというか、今は不安の方が大きいです」と胸の内を明かし、手の届きそうなところにまで来た聖地については「野球をやっている上での1つの目標。夢の舞台というか、大きな存在ですね」と目を輝かせた。うれしい便りを待ちながら、鍛錬を積む。【古財稜明】
◆田辺 1896年(明29)に創立した県立校。夏の甲子園には1995年に1度出場。センバツは田辺中時代の1947年(昭22)から2年連続で出場。主な野球部OBは巨人、大洋(現DeNA)で活躍し、近鉄で監督も務めた岩本尭ら。男女ともにホッケー部は全国区。和歌山県田辺市学園1の71。西嶋淳校長。

