崖っぷちから逆王手をかけた。日本ハム矢野謙次外野手(35)が、逆転劇のヒーローになった。「2015 SMBC日興証券 クライマックスシリーズ パ」(CS)ファーストステージ第2戦で、執念の決勝打&美技で救った。同点の8回裏1死二、三塁から決勝2点打。直前の8回表には左中間の飛球を好捕し、追加点を阻止と、攻守にフル稼働した。巨人からトレード移籍で6月に加入した仕事人が、1勝1敗へ持ち込んだ。

 矢野は心の中で男泣きした。1点を追う8回。レアードが中越え同点二塁打を放ち、なお1死二、三塁。ボルテージは最高潮に上がる。ロッテ大谷の初球カーブ。バットの先で拾い、振り切り、前進守備の内野陣の頭を抜いた。中前へ落ちる決勝2点打。一塁へ到達する。大騒ぎする三塁側ベンチの仲間たちが、目に入った。こみあげてきた。

 「寸前でした。もう本当に、泣きそうで。ヤバかったです。やっと報いることができました。栗山監督…、支えてくれたみんなのことが浮かんできて、涙が出そうだった」

 表面上はこらえ切ったが、心の中は号泣していた。

 強い精神が奮闘の源だった。1点ビハインドの8回2死一塁。左中間へ長打性の打球が襲う。不慣れな左翼から激走した。抜かれれば致命的な失点。「どうかと思った。手を伸ばしたら、入ってくれた」。直前の7回に代打で途中出場したが凡退。心を折らず、信じた。詰め込んだ執念が、両脚を動かすエネルギーになった。

 6月に巨人から交換トレードで加入。移籍当初は劇的な活躍をしたが、迷宮に入った。終盤に突入しても、低調なまま。今季最終戦の5日ロッテ戦で左前打を放つまで25打席連続無安打。2軍で再調整もした。「ケンジ、それでいいから。そのままやってくれれば、いいから」。スランプの間、栗山監督の言葉に、頭を下げ続けた。

 「こんなに期待されていると実感できたことが、今までなかった。話してもらって、聞いているうちに、涙が出そうになりました。我慢しましたけれど」

 フリー打撃でハッスルした。「いいところを見せようと思って。見せたいと思って」。軽打してフォーム、感覚を養う巨人時代のルーティンを一時、崩した。CS前に練習での強打をやめ調整法を戻した。自称「脱・いい人打法」と命名し、吹っ切って臨んだ大舞台。崖っぷちで、よみがえった。栗山監督は「ケンジに、もう1回(打席に立つ)チャンスがくると信じていた。うれしかった」。思いは通じていた。

 お立ち台。矢野は叫んだ。声を裏返し、絶叫した。

 「ファイターズ サイコー!」

 望みは、つながった。逆転、ファイナルステージへ。矢野が、希望の灯をともした。【高山通史】

 ▼矢野が8回に勝ち越し打を放った。矢野は6月に巨人から移籍。プレーオフ、CSで、そのシーズンの途中に移籍した選手がV打を放ったのは初めてだ。矢野の巨人時代のポストシーズン成績を出すと

 CS(25打数8安打、打率3割2分)

 日本シリーズ(23打数7安打、打率3割4厘)

 CS、日本シリーズの両方で打率3割を記録しており、CSはこの日の成績を加えて27打数9安打の打率3割3分3厘。公式戦の通算打率は2割6分5厘の矢野だが、短期決戦では堂々の3割打者だ。