1球我慢した分、フルスイングの威力が逆風を切り裂いた。3点リードの4回2死。西武佐藤は2球連続空振りすると、3球目のボール球を見送った。「追い込まれていた。三振だけはしないように」。4球目、フォークボールを強振した打球は左翼スタンドへ一直線。「真芯だったんで、気持ちよかった」。ロッテを大きく突き放したプロ1号で、山賊打線の刺客に名乗り出た。

昨秋ドラフト7位で、全体68番目の男。開幕1軍を勝ち取ったが、山賊の壁は厚かった。4月20日に登録抹消。ファームでは当てにいく打撃で、持ち味のフルスイングが影を潜めた。山川、外崎の系譜を受け継ぐ富士大出身。岩手・花巻で培ったパンチ力で成り上がってきた。赤田打撃コーチから「強いスイングをしなきゃ、強い打球はいかない。強い打球でなければ、ヒットにはならない」と“置きティー”から見直した。

中村の負傷で舞い込んだチャンス。8月に先発した5試合では、19打数6安打で打率3割1分6厘と奮闘する。入寮には大漁旗を持ち込んだ漁師の息子。「龍世」の名前には「龍のように世界を羽ばたく」という思いが込められている。いとこには平昌五輪スピードスケート女子団体追い抜きで金メダルを獲得した佐藤綾乃。血統書付きの家系だ。

2位日本ハムに0・5ゲーム差と肉薄した。混戦を抜けだすカギを握る佐藤は「率を残して、二塁打、三塁打を打って、たまにホームランを打って打点を稼げるようなバッターになれたら」としっかりと地に足をつける。海でもなく、氷上でもない。山賊の一味となって、バットをかち上げる。【栗田成芳】

▽西武辻監督(佐藤のプロ1号に)「おめでとう。ちゃんと振れているし低めを見極めることができる。成長すればもっと本塁打を打てるようになる」

◆佐藤龍世(さとう・りゅうせい)1997年(平9)1月15日、北海道生まれ。北海では甲子園出場なし。富士大では1年春からリーグ戦に出場し、3年春に首位打者と本塁打王、同年秋に打点王。18年ドラフト7位で西武入団。19年3月29日ソフトバンク戦でプロ初出場。今季推定年俸600万円。174センチ、81キロ。右投げ右打ち。