文京区の東京ドームから西へ37キロ-。灼熱(しゃくねつ)の川崎市のジャイアンツ球場では、巨人阿部慎之助2軍監督(41)が「アメとムチ」を使い分け、若手を育てている。今季1軍に定着した松原や田中豊らも開幕は2軍。阿部流の指導法で1軍に送り出してきた。昨季引退した指導者1年目の「鬼軍曹」は、どのような指導を行い、若手を導いているのか。

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8月には気温が40度近くまで上がる。9月に入ってもまだまだ暑いジャイアンツ球場では、イースタン・リーグの試合後、弾丸ライナーが飛び交う。

打撃の主は、半袖のTシャツの袖をカットしタンクトップに変えた阿部2軍監督。丸太のように太い腕で、試合で活躍できなかった選手らの居残り練習で自らバットを握り実演する。選手に1時間ほど打たせ、気付けば日が落ちている。

指導者1年目の今季、スローガンに掲げたのは「考動」。考えて動くことを求めた。「2軍の選手は1軍に行くことが目的」とぶれず、自身も各選手に対して、何をすべきか考えて動く。20代前半が多く、阿部2軍監督は憧れそのもの。口で伝わりにくければ、手本を見せればいい。時にはブルペンでボールを受け打者目線で助言を送る。脇を固めるコーチ陣もかつて原巨人の中心を担った選手たち。一丸となってイキのいい若手を次から次へと1軍に送り込んでいる。

選手ファーストの気持ちと厳しさを併せ持つ。悪天候の日に室内で行った試合前練習。阿部2軍監督は、フリー打撃の順番を待つ若手選手を鳥かごに呼び、自ら打撃投手役を務め時間ギリギリまで打たせた。ボールを拾おうとする若手に「いいから早く行け」と言い、数十球のボールを1人で拾い集めた。一方で、1軍から落ちてきた経験豊富な選手も必要と考えれば3軍に落とす。「2軍もゲームがあるので追われてほしくない。3軍は鍛錬する時間がある」。陽岱鋼やロッテに移籍した沢村を3軍に送り己と向き合わせた。

試合でストライクが入らなかった投手、1軍で結果を残せなかった投手には、アメリカンノックで鍛え直す。きつくて音を上げる選手もいるが、終了時にはなぜかみんな笑顔になっている。田中俊や立岡と昇格したばかりの選手が活躍し「めちゃめちゃうれしい。おれはいいんだよ。俊太と立岡を褒めてあげて」。厳しい練習と言葉の裏には、愛情があふれていることを分かっている。だからきつくてもみんな笑顔になり、成長できる。【久永壮真】