ヤンキースFAの田中将大投手(32)が、楽天に復帰することが決まった。28日、球団が入団の基本合意を発表した。背番号は「18」。田中が伝説となった13年の日本シリーズ最終戦を、田中が本紙に手記を寄せた当時の紙面で振り返る。

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マー君が、日本一の胴上げ投手になった。楽天田中将大投手(25)が3-0の9回に登板。前日に160球を投げ完投負けしたが、志願のリリーフ登板だった。2死一、三塁と1発同点を招いたが、最後は代打矢野を空振り三振に仕留め、リーグ優勝、CSファイナルステージ最終戦に続く3度目の胴上げ投手になった。楽天は3-0で巨人を下し、対戦成績4勝3敗として、球団創設9年目で初の日本一に輝いた。最高殊勲選手はシリーズで2勝を挙げた楽天美馬学投手(27)に決まった。

 

これまでで一番力強いガッツポーズだった。9回2死一、三塁。1発同点のピンチで、田中は信じた1球を投じた。巨人の代打矢野をスプリットで空振り三振。両手を天に突き上げ、ありったけの声でほえた。あっという間にできた輪の真ん中で「1番」の決めポーズ。日本プロ野球の頂点に立った。

田中 Kスタで、東北の皆さんの前で、胴上げすることができて本当にうれしかったです。

お立ち台に立つと、拍手が鳴りやまなかった。リーグ優勝を決めた9月26日西武戦、CS突破を決めた10月21日ロッテ戦でも9回を締めくくった。

雪辱を期した連投だった。王手をかけて、第6戦の先発を託された。だが、160球の力投届かず完投負け。通常なら、連投は考えられない球数。それでも、星野監督に「行きます」と強く訴えた。投手に無理だけはさせない同監督を「じゃあ、行け」と折れさせた。「昨日は情けない投球だったので、今日出番がもらえるならいつでも行くぞと。意気に感じて、この舞台を用意してくださったチームのみんな、ファンの方々に感謝しながらマウンドに上がりました」と、疲れを忘れた15球で締めくくった。

プロに入ってから「1年、1年、優勝を目指してやってきた」。7年目。ついに目標を果たした。ただ、最高の結果を手に入れても冷静な自分がいる。リーグ優勝した後、「優勝」の持つ意味を問われ答えた。

「分からないままかもしれない。優勝は、チームとしての1つの結果です。僕自身は、緊張感の中で試合をできた、ということぐらいしかない。優勝したからといって、プレーで変わることはないです」

たびたび「自分でコントロールできること」、「できないこと」の区別を口にしてきた。チームが優勝しても、しなくても、投手としてのベストを目指すだけ。与えられた役割を全うしたから、「日本一」という称号を手にできた。

今オフにポスティングシステム(入札制度)によるメジャー挑戦が濃厚とみられ、この日が日本でのラスト登板の可能性が高かった。ファンも、そのことを分かっているから、拍手がやまなかったのか。お立ち台の最後、ファンへのメッセージを叫んだ。

田中 最高のシーズンでした! 日本一になったぞー!!

全ての野球好きの記憶に「田中将大」の名前を刻んだ。【古川真弥】

 

<田中手記>

2日の第6戦は思うような投球はできなかったが、仙台で、Kスタ宮城で、「田中将大」と名前が呼ばれた。歓声と拍手もいただけた。うれしい限りだ。7年目でリーグ優勝、そして日本一になれた。ファンの皆さんに、心からお礼を言いたい。

その皆さんが変わったな、と思ったことがある。皆さんの「勝ちへの思い」が強くなった。僕が入団したころも一生懸命応援してくださったけど、ただ野球を見て歓声を上げるという方も少なくなかった。今年は違う。ふがいないプレーには、ヤジが飛ぶようになった。ボール先行になると「あー」とため息も聞こえる。それだけ、試合を見てくれている。野球の見方が変わったのだと思う。

そういう皆さんの後押しもあって、この日を迎えられた。僕は、楽天に入るべくして入ったのだと思う。

ドラフトでは4球団が指名してくれた。高校(駒大苫小牧)のあった北海道の日本ハムも含まれていた。たくさんの声援をいただいて、甲子園にも行った。ずっと応援してくれた土地で、プロでもやれたらいいなと思っていた。だけど、上のレベルで勝負したい思いが一番だった。どの球団に行こうが、自分がやる野球は変わらない。くじの結果を待った。

何が正解かは分からない。野村元監督に何度も言われたのは、「楽天に来て良かったな。戦力がなかったから、使うしかなかった」ということ。1年目、オープン戦の成績が悪くても使ってくれた。いろいろな方との縁があって、プロでの生活を始められた。仙台に住むことになるとは思いもしなかった。楽天に入ったのは“運命”だったと言えば、そうなのだろう。

ひたすら目の前のことをやってきた7年間だった。この機会に、僕がどういう思いでマウンドに上がっているのか、書きたい。

今季は開幕から24連勝できた。何度も聞かれたが、しばらくは連勝記録について、本当に何とも思わなかった。そもそも、勝ち星は、自分1人の力でコントロールできない。イニング数とは違う。もちろん、ずっと勝ちたいと思っていたが、記録は気にしなかった。ただ、ある程度、続いてからだ。正直、つらかった。周りの関心が「田中はどこまで勝つんだ?」から、「田中はいつ負けるんだ?」、「誰が田中を止めるんだ?」となったからだ。「なんだよ」と思った。「煩わしいな」と思った。

でも、試合が始まれば、そんなネガティブな思いは吹き飛んでいた。やることは一緒。記録は関係ない。その試合で勝つために投げるだけ。勝ち負けは、1つの結果。だから「いつか負けるんじゃないか」という恐怖感は、全くなかった。

日本シリーズでも一緒だった。「シリーズだから、もっと頑張れる」とも考えなかった。なぜなら、繰り返しになるが、試合が始まればやることは一緒だからだ。シリーズでも、CSでも、レギュラーシーズンでも、どんな試合でも変わらない。

もちろん、初めからそういう心理状態になれたわけじゃない。失敗はあった。力んでフォームや気持ちのバランスを崩した。状況判断を誤った。毎年の経験が積み重なり、今年はうまくいったのだと思う。大切なのは、うまくいかない時にどうするかだ。そこは、意識の差なんだろう。「自分はこんなに頑張っているのに」と思うのか。「周りはもっと頑張っている。もっと頑張ろう」と思うのか。自分次第だ。第6戦もそう。まだまだ下手くそだから、大事な場面で打たれた。そう思わないといけない。

今日、ファンの皆さんが喜んでくださる姿を見て、本当に良かったなと思った。来年は、皆さんの期待がさらに高まるだろう。それに応えるのがプロ。期待されないチームほど、寂しいことはない。だから、皆さんにお願いしたい。もっともっと期待してください。(楽天イーグルス投手)

(2013年11月4日付日刊スポーツ紙面より)