ヤクルトは小川泰弘投手(30)が先発。開幕投手の最有力候補が達成した、昨年のノーヒットノーランを復刻する。プレート板の踏み位置に足の使い方、球種…4年総額7億5000万円で残留した「21年度版ライアン」を要チェックだ。(所属、年齢など当時)

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<DeNA0-9ヤクルト>◇2020年8月15日◇横浜

ヤクルト小川泰弘投手(30)が15日、DeNA11回戦(横浜)でノーヒットノーランを達成した。打者32人、今季最多となる135球で史上82人目(通算93度目)の大記録。同時にプロ入り初の2桁、10奪三振でチームの連敗を5で止めた。ヤクルトでは、ガトームソンが06年5月25日楽天戦(神宮)で達成して以来、14年ぶり史上8人目の快挙となった。

横浜の暑い夜の3時間2分間、小川はDeNAの強力打線に1本のヒットも許さなかった。9回2死、代打乙坂からフォークで空振り三振を奪い、ようやく笑顔になった。「まだ実感として湧かないですけど、これからの投球にいい影響があると思う。今日のような投球をたくさん出せるように頑張りたい。まだ成長していけると思う」。偉業達成と同時に、チームの連敗を5で止めた。

変化を恐れず、三塁側だったプレートを踏む位置を今季からど真ん中に。新たに習得したシュートなど変化球を生かすためだったが、この日は最後まで球速の落ちない力のある直球で押した。多彩な変化球を投げる中で、全135球の約4割を占めた直球54球が効いた。「まっすぐあっての変化球だということで、今日改めて原点に返れた」と振り返った。

高津監督にかけてもらった魔法で、開幕から好調を維持した。シーズン前の練習試合では調子が上がらず、打ち込まれた。メンタルを心配した指揮官から「練習試合と本番は、全く違うもの。ガラッと変わる可能性がある」と言われたことが“おまじない”となった。プロ1年目に16勝を挙げ新人王を獲得した翌14年から、1軍投手コーチに就任したのが高津監督。「彼がいいときも、だめなときも分かっている」とハッパをかけられ続けた。小川も「最初の4連勝は、おまじないのおかげだと思う。今日の勝利はみんなで勝ち取ったものなので、みんなに感謝したい」と笑った。

苦しい時間を乗り越えたからこそ、歓喜の瞬間がある。昨季前は左足を高く上げ、下半身の力を大きく使う“ライアンフォーム”を封印。2段モーションなどさまざまなフォームを試したが、最終的に元のフォームに落ち着いた。昨季の成績は、自己ワーストの5勝12敗。試行錯誤が続き「時間を無駄に使ってしまったのかもしれない。遠回りをしてしまったかも」と悔やんだ時期もあった。それでも、たどり着いた先はノーヒットノーランの快挙。すべてが無駄ではなかったと、自身で証明した。【保坂恭子】

 

◆抜けなかったライアン 小川は入団当初、腕の振りが担ぎ気味に投げるタイプだったが、試行錯誤を繰り返し、それが抑えられたフォームとなった。腕が振り遅れなくなったことで、高めへの抜け球が減少。球威ある直球を低めに集められるようになった。この試合、ストライクゾーンより上に完全に抜けた真っすぐは、54球中6球。力のあるストレートをゾーン下部へ収め続けた。中盤6回に左打者の戸柱、神里から奪った見逃し三振の結果球は、ともに外角低めの直球。終盤8回に右打者の嶺井から奪った空振り三振の結果球は内角低めの直球。最後まで抜けなかった真っすぐが、快投の土台となった。