こびりつく甲子園の苦い記憶を塗り替えた。巨人のドラフト1位、西舘勇陽投手(22)がプロ初勝利を挙げた。
同点の9回に登板し、3者凡退。直後の延長10回に丸が勝ち越し犠飛を放ち、記念の1勝をつかんだ。開幕から勝ちパターンの中継ぎを担い、18試合目での記念星となった。チームは昨季3勝10敗と苦しんだ甲子園で、カード勝ち越しに成功。逆転勝ちの貯金2で交流戦に突入する。
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苦い記憶ばかりだったあの浜風が、黒土が心地よかった。9回先頭、西舘は中大の先輩森下を力で押した。プロ最速、自己最速タイの155キロ直球で左飛。大山、熊谷も封じ、流れをたぐり寄せ初勝利。「阪神ファンの方もいますし、どう喜んでいいのか分からなかったけど…。高校の時はまったく力がなくて力通りの結果になった。少し成長できたのかな」と謙虚に喜びつつ岩手・花巻東時代を思い返した。
甲子園は2年春夏、3年夏と3度出場も計8イニングで13失点(自責9)と涙に暮れた場所だった。花巻東は伝統的に聖地の土を持って帰らない。最後の夏も同じ。その意味を「ここで満足せず、次のステージで頑張れ。僕の場合はプロになれってことかな」と受け止め、中大を経て、実現させた。
寮生活の花巻東では“エースの部屋”で育った。入学すると、2階の一番端が割り当てられた。過去にはブルージェイズ菊池、ドジャース大谷が過ごした同じ部屋。半年に1度、部屋替えもある中、西舘は最後まで同じ。机、ベッドなど偉大な先輩の軌跡が残る空間で日常を過ごしてきた。「期待していただき、すごくうれしかった。でもその分、高校からプロにも行けず、日本代表も入れず結果で返せなかった。それは悔しかったんです」。
怪物を道しるべに汗を流した。練習を止められてもトイレ裏で隠れてトレーニングしていた菊池。150メートル級の場外弾を飛ばし、寮では体が大きすぎて、点呼の際には挙手で天井の照明を破壊してしまった大谷。耳にする逸話の1つ1つに成長意欲をくすぐられた。
今、寮生活は5階の端が自らの部屋となった右腕。ベッドには大谷も使用するマットレスを敷く。グラウンドでは僅差の終盤が居場所。忘れられない1勝をつかんだ。【上田悠太】
○…巨人阿部監督(プロ初勝利の西舘に)「好リリーフして、おまけみたいなものだから、この1勝を忘れないでほしいなと思いますね」



