侍ジャパンのラーズ・ヌートバー外野手(25)が、全試合に1番打者として出場し、3大会ぶりの世界一奪回に攻守で貢献した。

史上初めて米国で生まれ育った日系選手が日の丸を背負い、チームメートと歓喜を共有し、家族への感謝とともに、かけがえのない時間を過ごした3週間。さまざまな思いを明かし、本紙に手記を寄せた。前後編で2日連続で掲載します。

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9歳の時から、日本を代表する選手になりたいと思っていて、3回目の優勝の一員になれた。今、夢の中にいるようだよ。胴上げされるのは初めてで、今までにないくらい最高の瞬間だった。自分がその1人になれて、すごく驚いたよ。

日本でプレーできたことは、僕の人生を変える経験になった(a life changing experience)。日本人とアメリカ人のハーフで生まれたけど、日本を代表することで自分の中で心が開き、熱くなった。日本人としての誇りを、もっと感じられるようになったよ(So much proud of Japanese)。なにより、ファンが僕を受け入れてくれて本当に感謝している。僕の人生を変え、かけがえのないものにしてくれた。

日本生まれではない選手が、日本代表でプレーするのは初めてだと聞いていた。どれほどの期待があるか、どんなことが待っているか、正直、僕自身も分からなかった。だから最初の試合(3月6日・阪神との強化試合)、最初の打席でヒットが打てたあの瞬間は本当に良かったと思う。あのヒットで肩の荷が下りた感じだったし、ファンが僕のプレーを、とても喜んでくれた(The fans are very nice to me)。その時までは、やっぱり不安だったんだ。

初めてチームに合流した時も驚いたよ。ミーティングで朗希が「たっちゃんTシャツ」を着ていて、それがみんなに渡されて。僕をサポートしてくれて、緊張をほどいてくれた。アメリカと日本の国旗もプリントされていて、すごくクールでうれしかった。本当に、みんなに感謝しているよ。

栗山監督も、とても親切で、僕にすごく感謝してくれた。でも、むしろ僕の方がありがたいと思っている。彼は僕に手紙を書いてくれた。来日して、名古屋のホテルに着いて、部屋にあったんだ。文化としても素晴らしいことだし、僕は監督から手紙なんて今までにもらったことがなかったよ(I’ve never gotten a letter from the manager)。どんな言葉だったかは、プライベートだから言えないけど、彼は僕のために、時間をかけて書いてくれたんだ。それは、本当にうれしかった。

僕を呼んでくれて、日本代表の一員にしてくれて、栗山監督以上に、僕が感謝している。だから、僕は彼に伝えたよ。「出来ることを全力でやります。一生懸命プレーする」と。

野球にしても人生にしても、目標を決めることを大事にしている。目的がなく、生きることはしたくない。ゴールを確認しながら、それに向かって、いつも、もっと良くなるようにやっている。

だから、翔平にもいろんなことを聞いたよ。何を考えているのか、何をしようとしているのか、打席でのタイミングの取り方や、ルーティンとかね。得られるものは全部、吸収しようと(I tried to take everything I can)。一番印象に残っているのは、どれだけ彼が細かいことに気を配っているか。どれだけの強度でボールを投げているか、どれだけ速くスイングができているか、常に把握している。そうやって、彼は目標を上回ることができるんだなと分かったんだ。

ベンチでは、お互いを知るために、少し日本語でしゃべったりしたよ。『ナニヤッテンノ?』とか。彼が好きだったのは、『ナニヤッテンノ、コンチャン(近藤)』『バカジャナイノ』とか。たぶん、僕がそういうフレーズを言えると知らずに驚いただろうけど、僕の母が使ってたりしててね。もちろん野球の会話も含め、楽しんだよ。

今回のWBCで日本代表としてプレーできたことは、家族にとっても、僕の母にとっても、本当に素晴らしい経験だった。日本人の母を持って、本当に誇りに思う。僕だけじゃない。僕ら兄弟のために、母がどれだけ献身的でいてくれたか。彼女の家族にとっても、とても特別なこと(Pretty special)だったと思う。金メダルも母にプレゼントしたい。

米国に来てから、仲間たちには「離れるのは寂しい」と伝えたよ。だからまた、侍ジャパンに戻ってきたい(I have a plan to come back)。そして、メジャーで出来るだけプレーしたいけど、いつか、キャリアのどこかで、日本のプロ野球でプレー出来たらいいなと思っているよ。最高!にっぽんだいすき!!(ラーズ・ヌートバー)

 

◆ラーズ・ヌートバー 1997年9月8日、米カリフォルニア州生まれ。米国人の父と日本人の母を持つ。高校時代は野球とアメフトをプレー。18年ドラフト8巡目(全体243位)でカージナルス入団。21年6月にメジャーに昇格し、通算166試合、19本塁打、55打点、打率2割3分1厘。190センチ、95キロ。右投げ左打ち。