プロボクシングWBC世界バンタム級3位の那須川天心(28=帝拳)が19日、都内で自ら主催した公式ユーチューブ企画「非公式会見」で2度目の敗戦から約3週間ぶりに沈黙を破った。判定負けした同級王者・井上拓真(30=大橋)との再戦(9月27日、トヨタアリーナ東京)をあらためて振り返るとともに「拳闘をやる」と今後のテーマを掲げた。さらに試合後の会見での発言「僕の中で負けていない」「ボクシングに負けた」がSNS上で批判されたことを受けて真意を語った。【取材・構成=首藤正徳、藤中栄二】

   ◇   ◇   ◇ 

-9月の井上拓真戦をあらためて振り返って

那須川 試合は何度も見返しています。自分の中では7ラウンドにダウンを奪ったシーンは、ボクシングをやってきた3年間で積み上げてきたものがあの一発(左ストレート)に出たと思う。ただあそこで倒し切るべきだった。そのツメの甘さが自分の弱さかなとも思う。この試合で自分の今後のテーマが大きく見えた。

-今後のテーマとは

那須川 「ボクシング」をやめて「拳闘」をしようと思う。「ポイントを取って戦う」ということをずっと目指してきたけど、もっと「戦い」をしなければいけないと思った。ボクシングはポイントを取り合う競技で、もちろんそれは僕も理解しています。その上でしっかりと「戦い」を見せないといけないなと。今回、本当に会場の熱、大声援がすごかった。選手同士の「倒したい」という気持ちのぶつかり合いが、熱狂を生むのだと思う。ボクシングはずっと見てきた人たち、有識者だけが分かればいいというものではない。そのためにも戦いが必要。だから今後はしっかりと拳闘をしていきたい。

-「拳闘をする」とは倒すことを目的にリングに上がるということか

那須川 そうですね。最初の4ラウンドは自分の中では自分の方がジャブを当てている印象があったけど(1人のジャッジの採点は)4ラウンドとられていた。採点は人の手に委ねているわけですから、そこに文句を言うつもりはない。自分の手で決着をつける選手にならないといけないと思う。どんどん倒しにいける選手になっていきたいと思うし、その方が面白いと思います。

-その考えは拓真戦で感じたことか。リング外も含めて導き出したのか。

那須川 全部含めてですね。昔の選手の試合を見ると「どっちが勝つんだ」といったワクワクみたいなものがすごくあった。それをまた取り戻したいというのもある。今は勝ち方を追求している、勝ち方を知っている選手が強いという方向になりつつある。そうではなくて、格闘技を見る人は日常にないものを見たいと思っていると思うので、そういうものをもっと追求していきたい。

-拓真戦で今あらためてこう戦えばよかったと思うことは

那須川 そういう話はタラレバになるので嫌いです。ただ試合が終わって思ったのは12ラウンド終えてもまだ全然やれたということ。余力を残そうと思って戦ったわけじゃないけど、残っちゃったという感じ。前に出て攻めても12ラウンドを戦い抜く体力、気力はあった。だから1ラウンド、1ラウンドの使い方が今後の課題。キックは3分3ラウンドで短距離、ボクシングは3分12ラウンドで長距離。その長距離の中でいかに短距離を走る場所をたくさん増やせるか。

-結果自体は受け入れているのか

那須川 もちろんです。自分の手で決着をつけられなかったのが(敗戦の)最大の要因。今後はそこをしっかり受け止めてやっていかなければならない。

-試合後の会見で「何が何だか分からない」と話したが、どれくらい経って自分の中で整理できたのか 

那須川 1週間くらいですかね。ダメージはまったくなかったのですが、本当に後頭部が痛くて、しばらく家で寝ていた。その時にいろんな整理をしました。

-2度世界挑戦に失敗して、世界王者への思いに変化はあるか

那須川 変わったことはない。ずっと言ってきたけどベルトを目指して格闘技をやったことはない。あくまで自分との向き合い。どう格闘技を面白く伝えていくかです。2回挑戦して負けたのは本当に悔しいので、しっかりとやり返したいという気持ちはありますが、ベルトを取りたいとか、そういうところを目標にするというより、もっと強くなって熱を生む自分を、しっかり応援してくれる人に見せたいと思う。

◆拳闘とは 日本では昭和20~30年代頃まで一般的にボクシングは「拳闘」と呼ばれていた。当時は技術や戦略よりも、文字通り勇敢に拳で殴り合って雌雄を決する敢闘精神が支持された時代で、猛ラッシュで一世を風靡(ふうび)したピストン堀口は「拳聖」と呼ばれた。1952年に白井義男が卓越した防御技術と巧みな左ジャブを武器に日本人初の世界王者となった頃から、技術や戦略といった競技性も重視されるようになり、次第にボクシングという名称が定着した。

★井上VS那須川再戦VTR(9月27日、トヨタアリーナ東京)序盤から右構えの王者井上が距離を詰めてワンツーを繰り出し、サウスポーの那須川は右ジャブから左カウンターを狙うハイレベルな攻防が展開。4回終了時の公開採点は2-0で井上が優勢。7回には那須川のワンツーでダウンを許した井上はロープ際まで追い込まれながらも何とかピンチ回避。ダメージがあるかに見えたが、8回以降も左フック、左アッパーなど手数を増やし、追い上げる那須川の反撃を振り切って3-0の判定勝利。