プロレスリング・ノアが、IT企業のエストビーに事業譲渡した。ノアの会社自体は残したままで、プロレス事業とノアという商標だけ譲渡するというが、実質的には「身売り」ということだろう。00年に故三沢光晴さんが、全日本を辞めて創設した団体は、16年目にして大きな転換期を迎えたといえる。

 ノアは、三沢さんが09年6月に試合中の事故で亡くなってから徐々に経営が苦しくなった。三沢さんとともにノアを支えた小橋建太が引退し、秋山準、KENTAといったエース級も団体を去った。大会場での興行も難しくなり、地方では数百人という入場者数も珍しくなかった。ここ2年ほどは、新日本から鈴木軍の貸し出しを受け、何とか踏みとどまっていた。

 関係者によると、興行収入の低下で、収支はトントンか赤字。ここ数年は、スポンサー探しを継続して行ってきたという。そんな中、過去に全日本の社長も務めた経験のある内田雅之氏の仲介もあって、エストビー社に事業譲渡が決まった。今後は、エストビー社に資金援助を受け、ノアという名前はそのままで、プロレスを続けていくという。

 日本のプロレス界では、これまでメジャー団体がいずれも買収を経験している。新日本は、カードゲーム会社ブシロードに買収され経営を立て直した。全日本は、スピード・パートナーズ社(のち八丁堀投資)に買収されたが、八丁堀投資の倒産などにより、秋山準が社長となって経営権を取り戻す形となった。

 経営者の交代や、事業譲渡というのは、やはりプロレスラーによる会社経営が、時代の流れに追いつけないという部分があるように思える。昭和時代は「いいプロレスをやっていれば、黙っていても客は入る」あるいは「見に来たくないやつは、来なくていい」で済んだかもしれない。しかし、メディアや、SNSの発達で、あらゆるエンターテインメントの中でプロレスの希少価値が薄れて行く中で、どう生き残っていくかの視点がないと、業界は衰退していくだけだ。

 新日本は、いちはやく情報発信の大切さを認識し、会社、レスラーが一体となって情報発信を続け、若い女性を中心に観客を会場に呼び込むことに成功した。ノア、全日本も、レスラーの質、プロレスの試合内容については、新日本とそんなに変わらないものを持っていながら、情報発信という点では大きく劣っているように見える。

 新日本の選手たちのように、選手個々が自分をどう売り込むかを自分で考える力。自分プロデュース能力を高めるとともに、会社も選手の売り込み方、世の中への発信の仕方をあらためて考える必要があると思う。いいプロレスをやっても、その面白さを、プロレスを知らない未来のファンに伝えるすべを知らなければ、プロレスは衰退してしまう。【桝田朗】