世界中がじっと耐えた1年が過ぎようとしている。メディアの世界は節目が好きだ。1年の総決算の十大ニュースの時期になった。今年は重大ニュースか。コロナ禍でボクシング界はあまり動きがなかっただけに、10個も話題がないかもしれない。
世界でトップニュースと言えば、マイク・タイソンのリング復帰になるのだろうか。ロイ・ジョーンズとのレジェンド105歳対決は、世界中から注目を集めたビッグマッチになった。
ガウンなしで、グローブ、トランクスにシューズはおなじみの黒。頭を振りながら、中へステップして、ボディーを打ち込んだ。現役時代をほうふつさせ、懐かしさがあった。
50歳を超え、15年ぶりのリング。年齢とブランクを考えれば、大したものだった。体も現役時の約100キロに絞ってきた。この一戦への思いも伝わってきた。楽しませることが第1で、ファイトマネーも寄付するという。
WBCが用意した元世界王者の採点は忖度(そんたく)したのか引き分け。終始タイソンが攻め続け、フルマークと言えるだろう。PPVの売り上げは60億円を超えたという。あの悪童も今や人気者に。コロナで鬱屈(うっくつ)としていただけに、スター復活は楽しめたと言える。
試合2日前の感謝祭の日。タイソンのユーチューブは傑作だった。「今年のごちそうはこれだ」と見せたのがジョーンズを模したケーキ。右耳部分を切り落として「イベンダーよりもおいしい」。96年のホリフィールドとの再戦で耳噛み事件にひっかけたもの。これは笑えた。
試合自体は凡戦だった。ジョーンズはクリンチに終始し、防戦一方だった。タイソンのパンチが怖かったのだろう。攻めは皆無。再三のクリンチに、タイソンがまた耳噛みかと頭に浮かんだ。タイソンも手控えたのかボディーが多く、期待された打ち合いはなかった。
タイソンがSNSに高速連打のミット打ちを投稿し、復帰へ思わせぶりな発言が始まり。当初は昔の名前を利用したエキシビションマッチに冷めた見方も多かった。試合後は多くの称賛の声が上がった。
タイソンは今後もエキシビションを続けたい考えという。現役とも戦いたいらしい。2分8回のエキシビションに過ぎない。ちょっと待ってよと思う。
32年前に東京ドームでのこけら落としで来日した。当時は江戸川橋にあった帝拳ジムで練習。非公開も毎日見張り取材した。突然、上野動物園に行ってライオンとにらめっこ。試合では強打爆発の2回TKO。リングの内外での面白さでボクシングにはまった。
ホリフィールドも刺激を受けてミット打ちを投稿し、相手に名乗りを上げているという。ライバルとの3度目は興味も尽きず、見てみたい気はする。そこらで打ち止めにしてほしい。
国内には専門誌が2誌あるが、1誌はタイソンのことは1行も載っていなかった。もう1誌は「予想外に大好評」と後半に2ページの読み物。しょせん色物ということだろう。全盛時を取材した記者としてはむなしさも感じた。やはり真剣勝負でないと面白くない。【河合香】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)


