プロレスリング・ノアの武藤敬司(58)が、12日に行われた日本武道館大会で潮崎豪(39)を破り、初のGHCヘビー級王者に輝いた。新日本IWGPヘビー級、全日本3冠ヘビー級と合わせ、史上3人目となる、ヘビー級シングルのグランドスラムを達成。新たな偉業で、11年ぶりとなった日本武道館興行を堂々と締めた。58歳でのタイトル挑戦に抵抗もあったが「出て何かを言われてもゼロではない」。不退転の決意をリングの上で証明してみせた。

15日にはノアと2年契約を結んだ。来年末には還暦を迎える。「なかなか素晴らしい契約。マー君(田中将大=楽天)よりちょっと見劣りするくらいだよ。このリングで朽ちていくかもしれないが、骨の髄までしゃぶってもらいたい」。02年全日本入団時に話題を呼んだコメントで喜びと決意を表現した。

ノアに入団した背景には、新日本、全日本で頂点を極めたことだけでなく、業界トップを目指すノアに未来の可能性を感じたから。昨年コロナ禍で試合が延期・中止となるも、3月末からすぐに無観客で再開。業界で最初に外部配信を仕掛けたのはノアだった。「コンテンツの素晴らしさとか、こういう団体で俺自身試合をしたいと思っていた」。次々と新しい仕掛けを行っていくノアの活動をそばで見てきたからこそ決断に至った。

昨年3月に代表を務めていたWRESTLE-1が解散。その後ノアに参戦するようになった。「いいタイミングだった。プロレスのことだけ考えていればいいので、肩の荷が下りた」。18年に膝に人工関節を入れる手術をしてからコンディションが回復。それまでの10年を「暗黒の時代」と言うほどの苦しみから脱却し、ビッグタイトルを勝ち取った。プロレスだけに集中できる環境を「心地いい」と明かし、さらなる防衛にも闘志を燃やす。

もちろん、これまで培ってきたものは後輩に伝えながら、新たな挑戦にもしっかり向き合うつもりだ。無観客試合を初体験し「もしかしたらこれが今からのプロレスかもしれない。リング上でへばっていると、携帯の画面を変えられてしまうかも。そんなことも考えてやっていかないと」。

オファーがあればバラエティーにも出る。先日は蝶野、長州とともにTVドラマにも出演した。「しゃべりは芸人に勝てないし、芝居は役者に勝てない」と言いつつも「食っていくためにはそれくらいやらないといけない」とプロレスを広める活動も手を抜かない。

今月4日には「ジャイアント馬場23回忌追善興行」に参加。天山ら40代の選手に勝利し「後輩たちに、まだやれるというところを背中で見せたい」と自信をのぞかせた。リングに上がる先輩たちのパフォーマンスも視察。昨年2月以来となる、自身プロデュースのマスターズ大会開催へ「コロナが明けたら、先輩方をまた引っ張り出して、すぐにやろうと思っている」と意欲を見せる。

新日本時代からアントニオ猪木氏の魂を継承し、攻めのプロレスで頂点に立った。デビュー37年目。海外を含め、さまざまな団体を渡り歩いてきた武藤の言葉には裏表もなく、あいまいな表現もない。「ナンバーワンレスラーを抱えた以上は、業界トップになってもらわないと困る」。覚悟の契約を結んだ武藤の挑戦は、今後もまだまだ続いていく。【松熊洋介】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)

2月15日、ノアと正式契約を結んだ武藤敬司(右)。左はDDTと正式契約を結んだ秋山準
2月15日、ノアと正式契約を結んだ武藤敬司(右)。左はDDTと正式契約を結んだ秋山準