決して交わるはずのなかった「キング・オブ・ストロングスタイル」と「魔界」の世界観が、戦いの地・日本武道館で交錯した。

米プロレス団体WWEのスーパースターSHINSUKE NAKAMURAこと中邑真輔(42)。今年2月21日の東京ドーム大会で現役引退を発表している武藤敬司(60)が代理人を務める、グレート・ムタ。時代は違えど、世界のプロレス界を彩ってきた両雄が、元日ノアのメインイベントで激突した。

中邑はバイオリン生演奏の、あの入場曲を背景に、身を揺らしながら登場。黒に赤のラインが入った毒々しいコスチュームを披露した。

試合は中盤、落とし穴が待っていた。仕留めにかかった中邑だったが、一瞬の隙を奪われて、真っ赤の毒霧で視界を奪われた。さらに、ムタに場外でコスチュームを引き破られると、パイプ椅子殴打に見舞われた。

だが、そこで中邑の目の色が変わった。なりふり構わずストンピングを連打すると、ムタが以前に見せた、花道を走って食らわせるラリアットを見舞った。再び黒の毒霧を浴びせられながらも、ひるまない。なんとムタの口から毒霧を吸いつくすと、最後は自身が緑色の毒霧を噴射した。そしてムタがひるんでいる隙に、必殺技の「キンシャサ」を決めて3カウントを奪った。

満員のファンが詰めかけた日本武道館に、驚嘆、興奮、感動…さまざまな感情が、ごちゃ混ぜになった声にならない声が響き渡った。19年6月のWWE両国大会以来となる3年半ぶりの日本マット。中邑は「奇跡をありがとう。バイバイ、マイアイドル、ムタ」と話した。そして最後は代名詞の「イヤァオ!」の絶叫。一礼すると、ムタに肩を貸して会場を後にした。横顔には、光るものが伝っていた。

WWEのスーパースターが他団体のビッグマッチに出場するのは異例中の異例で、「奇跡の試合」として国内外で大きな注目を集めていた。大会直前会見では、自身とムタが刺しゅうされた特製ジャケット姿で登場。「中高生時代のアイドル。これ以上ないほまれ」と初対戦となるムタへの憧れを口にしていた。ムタの代理人を務める武藤は「世界観と世界観のぶつかり合い。他のレスラーでは描けないような最高のアートになる」と話していた。

中邑は、16年1月を最後に新日本からWWEに移籍。18年1月に日本人として初めて「ロイヤルランブル」を制覇し、同年4月の「レッスルマニア34」でAJスタイルズのWWE選手権に挑戦。その後もユナイテッド・ステーツ王座、インターナショナル王座、SmackDown王座を獲得。不惑を超えた今も最前線での活躍を続けている。