もう無名のダークホースとは呼ばせない。西前頭10枚目の明生(24=立浪)が、関脇貴景勝と並ぶ2敗とトップの座を守った。前頭石浦を寄り切って快勝。茨城・つくばみらい市の部屋との往復を電車通勤する際、今場所初めて声を掛けられた。「ちょっと有名になった」と、好調の思わぬご褒美に気分も乗ってきた。前日10日目まで2敗で並んでいた関脇御嶽海、前頭朝乃山、隠岐の海は敗れて3敗となった。

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ファンの声援が明生を後押しした。立ち合いは左をねじ込もうとしながら、石浦に圧力をかけた。たまらず距離を取り、右へ跳んで回り込もうとする相手を、左を差してつかまえると、そのまま体を寄せて寄り切った。体重が37キロも軽い110キロの石浦を動き回らせず、前に出て白星をたぐり寄せた。土俵際の場面は「やるしかない、勝負だなと思った」。取組前よりも大きな拍手が送られた。

部屋と両国国技館は、つくばエクスプレス、JR総武線を乗り継ぎ、片道1時間余りをかけて移動している。9日目から3日連続でトップタイだが前日までは「誰からも声を掛けられません」と話していた。だがこの日の取組後に自ら「今日、電車で声を掛けられました」と切り出した。しかもつくばエクスプレスの車内で中高年男性から、総武線のホームで女性から。1日に2人も同時に「応援してます」と言われた。「一瞬で、女性の年齢は分からない」。場所入りで集中していたが「ちょっと有名になった」とうれしそうだ。

鹿児島・奄美大島から15歳で上京した、柔らかな口調の癒やし系だ。声を掛けてきた男女に「ちゃんと対応できなかった」と反省。稽古熱心な性格通りに誠実だ。「めったにない」という街中での声掛けに、成績で恩返ししたい思いも強まった。体の寄せ方は「まだまだ甘い。上位では逆転される」と厳しく自己評価。「自分の実力では優勝はまだ遠い。その前にいい相撲を取りたい」。変わりつつある無名状態とは違い、変わらない無欲を強調していた。【高田文太】