大相撲地方場所の風物詩「相撲列車」が、歴史に幕を閉じる。幕下以下の力士らが移動手段として利用してきたが、昨年九州場所限りで廃止されたことが9日、日本相撲協会関係者への取材で分かった。一部の巡業で列車利用は継続するが、年3回の地方場所での新幹線移動は途絶える。今後は相撲部屋それぞれでの移動となる。

相撲列車は力士を含む部屋所属関係者ら数百人がまとまって移動する列車の通称。地方場所の場合は東京発着の新幹線のことを指し、びんつけ油の甘い香りを漂わせて駅内を歩く力士たちの姿が本場所開催間近を知らせ、ファンの間でも親しまれてきた。かつては貸し切り運転の団体臨時列車で移動していたが、昭和末期には移動時間の短縮から新幹線が利用された。番付発表前日に乗り込み、千秋楽から1週間後に帰京する流れが主だった。

転機が起きたのはコロナ禍だ。20年3月の春場所以降は集団での移動が中止となり、相撲列車も運休になった。感染症対策の緩和により昨年の名古屋場所で復活。だが、部屋ごとの移動が定着していた中で、利用者数の減少も歯止めがかからなかった。大きな荷物を抱えた若い力士が団体で乗り降りする際には運行ダイヤに乱れが生じる懸念があり、負担増につながっていた。

関係者によると、昨年九州場所の乗り込み時に相撲列車を利用したのは全44部屋中11部屋にとどまり、時代に合わせた形での移動手段の模索が急務だった。今回の決定に、過去に相撲と鉄道にまつわる書籍を刊行した幕内格行司の木村銀治郎は「相撲界にある1つの文化が終わりを迎えるのは寂しいです」と本音を吐露。地方場所の訪れを告げる名物は今回1つの役目を終えた。同協会広報部では相撲列車に代わる新たな地方場所PR方法を検討している。