目指すは静岡県勢初の幕内優勝! 大相撲の東前頭10枚目で熱海市出身の熱海富士(22=伊勢ケ浜)が、地元の大きな期待を背に、心機一転、名古屋場所(13日初日、IGアリーナ)での飛躍を誓った。先代師匠の宮城野親方(元横綱旭富士)の定年に伴い、今場所から元横綱照ノ富士の伊勢ケ浜親方が指揮を執る新体制に移行。新師匠も期待する逸材は、まずは1年8カ月ぶりの2桁白星、さらにはその先も見据えている。
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幕内に定着したこの2年間で、熱海富士は屈指の人気力士に成長した。186センチ、180キロの大きな体とは、不釣り合いに映る愛くるしい笑顔が、女性や子どもから絶大な支持を得た。永谷園のCMキャラクターに抜てきされ、テレビやイベントへの出演も増えた。23年秋、九州と2場所連続で優勝次点の11勝を挙げ、いよいよ初優勝も目前-。そんな周囲や地元の期待もひしひしと感じていた。だが昨年初場所から先場所までの9場所は、全て1桁白星で負け越し6度。人気ばかり先行する形となった。
現状を打破しようと、猛暑日が続く暑い名古屋市の部屋での稽古後、言葉も熱を帯びた。「静岡とは隣の県なので、名古屋場所は準ご当所。いっそう地元の方のために頑張りたい。こんなことを言うと怒られちゃいますけど、目標は全勝。常に目指しています」。誰にも負けたくない-。そんな強い思いをにじませた。
稽古場では積極的に土俵に入り、誰よりも汗を流している。弟弟子の伯桜鵬、尊富士には番付で越され、2場所連続で十両優勝して新入幕を果たした草野も迫る。年齢の近いその3人、さらにモンゴル出身の研修生オチルサイハンを交えて猛稽古の毎日。元旭富士の先代師匠は再雇用で部屋付き親方として残るが、定年を迎えて師匠を続けられなくなった。元照ノ富士の新師匠体制でも、全45部屋屈指の稽古量は変わらない。
新師匠の期待は大きい。新師匠が最後に賜杯を抱いた1年前の名古屋場所。節目の10度目の優勝パレードでは、焼津市出身の前頭翠富士を含めて当時、他に5人いた関取衆を差し置き、熱海富士が旗手に指名された。今場所前の稽古後、伊勢ケ浜親方は熱海富士について「どうしても立ち合いが受け身になる。受け身になって相撲を取っているから、そこを直すように言っているんだけど」と、悪癖の修正を粘り強く指導していると明かした。稽古場では、誰よりも熱海富士がしかられる。それも期待と愛情の裏返し。伊勢ケ浜親方が熱海富士について語る時はいつも、うれしそうだ。
今月3日には、出稽古に来た横綱豊昇龍と稽古を重ねた。11番連続で取って3勝8敗。勝った3番は、圧力をかけての寄り切り、押し出しと持ち味を発揮していた。豊昇龍とは本場所で5勝3敗。そんな合口の良さも、続けて稽古相手に指名されたことも、熱海富士の潜在能力の高さを証明している。先場所は今年初、3場所ぶりに勝ち越した。ただ「勝ち越したのはよかったけど、まだまだです」と、千秋楽に勝っての8勝7敗では納得していない。
だからこそ目いっぱい稽古し「夜は気付いたら寝ています」と、クタクタになるまで体をいじめ抜いている。「体重計がないので分からない」というが、重さの乗った寄りは磨きがかかり、体重が減った自覚はない様子。よく体を動かし、よく寝て、よく食べる。そして気は優しくて力持ち。“お相撲さん”のイメージを体現する熱海富士が、新体制最初の場所で実力を再び示す2桁白星、さらには優勝争いに加わることを目指していく。【高田文太】
◆熱海富士朔太郎(あたみふじ・さくたろう)本名・武井朔太郎。2002年(平14)9月3日生まれ。静岡・熱海市出身。熱海中3年時の17年全国中学校選手権5位。名門飛龍高で1年からレギュラー。コロナ禍で東京開催だった20年11月場所の前相撲で初土俵。21年初場所で序ノ口、春場所で序二段と2場所連続の各段優勝。負け越しなしで22年春場所で新十両。同年九州場所で新入幕。1場所で転落も23年名古屋場所で十両優勝。再入幕した翌秋場所、九州場所と2場所連続で優勝次点の敢闘賞。最高位は西前頭筆頭。得意は右四つ、寄り。家族は母と妹。186センチ、180キロ。

