歌手デビューから13年、32歳になったレディー・ガガが初主演した映画が「アリー スター誕生」(12月21日公開)だ。

奇抜なファッションやメークで知られるガガが劇中ではほぼすっぴん(ナチュラルメーク)で登場する。

作品のベースは80年前の映画「スタア誕生」(ウィリアム・A・ウェルマン監督)。無名の女性が大スターの男性に見いだされ、スターの階段を上っていく。反比例して、男性の方は落ちぶれていく展開だ。

過去2度リメークされており、ジュディ・ガーランド(54年)、バーブラ・ストライサンド(76年)と、時のミュージカル・スターが進んで出演する定番作品でもある。すっぴんのガガは大きな鼻がいちだんと印象的で、若い頃のバーブラにちょっと似ている。

初監督、そして相手役を務めたブラッドリー・クーパーは舞台をロックの世界に置き換え、ガガのキャラクターを存分に生かした。

冒頭は大スター、ジャクソン(クーパー)の野外公演のシーン。彼の一挙手一投足に数万の大観衆が揺れる。ジャクソンにへばりついたようなカメラは、ステージに立つロック・スターにしか見られない光景を映す出す。快感が伝わってくる。あのタモリが音楽番組で「絶対にできなくて、やってみたいのはロックのステージだね」と語っていたことを思い出す。俳優として名声を得たクーパーにも決して味わうことのできないシチュエーションだ。自身どうしても見たかった光景なのだろう。

ステージを終えた彼が立ち寄った場末のクラブでは、さっそくアリー(ガガ)との出会いが待っている。ドラァグクイーン(異性装者)に混じって圧倒的なパフォーマンスを見せるアリーからジャクソンは目が離せなくなる。彼女が曲を書いていることも知り、その魅力にますますひかれる。懸命のアタックを始める。彼女は「スターの戯れ」と距離を置きたがるが…。

裕福な家に生まれながら、デビュー前はストリッパーとして生計を立てていたガガ自身を投影したような「妖しい世界」。出会いのシーンはガガのこだわりに違いない。

初監督、初主演となった作品でそれぞれが思いを果たす序盤のエネルギーに一気に引き込まれる。

ガガは想像以上にうまい。音作りでフッとクリエーター・モードに入る目線の感じなどは当たり前かもしれないが、ジャクソンへの尊敬が愛情に変わっていく課程など、実に自然にこなしている。これからのガガ様は映画でもやってくれそうだ。

クーパーのアルコール依存症ぶりもリアルだ。終盤粗相をしてしまうくだりは本当にやった感も。「アメリカン・スナイパー」(15年)で彼の演じる狙撃手が長時間の待ち伏せで垂れ流しにしている場面が頭に浮かんだ。

初監督の盛りだくさんで、尺を詰める必要があったのだろう。後半の編集にぶつぶつっと切った感じはあったが、それがむしろダイナミックな印象を残した。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)